センチメートル
S7/アルルリ
――――――
「ねえ、アルマさん、見てください!」
ボンヤリと前を見ていたアルマに差し出された、ルリの綺麗な腕。指先から垂れる江ノ電ストラップが、アルマの前で何度か横に揺れた。
「あ、藍羽さん……あ……うん、か、可愛いね」
緊張のせいで意味の分からない返答をするアルマに、ルリは首をかしげる。
「確かに、可愛らしいですよね! 小さくって!」
風で揺れる江ノ電ストラップ。この意味くらい、鈍感なアルマにでもわかっている。
「……か、買おうか?」
ルリの瞳が澄み切っていく。もちろん元々美しく、清らかな瞳ではあるが、歓びがそれを深化させていく。
やっと、ルリの気持ちに応えられたかな、とアルマは一息つく。
夏を使って、前回のデートのリベンジを果たそう、そう思っていたが、前とは違うギクシャクがアルマの中にあった。もう少し近くにいて、手を取ってもいいものか。その距離感を迷っている。
「はい、藍羽さん。他にも見に行こうか」
「あ、アルマさん、待ってください」
肩を出した、露出度の高いルリの服装に、アルマは何度も顔を赤くする。このまま興奮して鼻血を出してしまうのではないかと不安になる。
もちろん、その時用にティッシュは割と多めに用意してある。
「私、前とは逆の方に行ってみたいです。良いですか?」
積極的なルリ。少し押され気味なアルマは、ただうなずくしかなかった。
方向を変え、前とは違う道を通っていく。商店街は観光客でもにぎわっている。
「私、少しお願い事をしたくって」
その道中、ルリはアルマにこんなことを言った。
「願い事?」
「はい! だから、あの、八幡宮に行きましょう!」
アルマは近付く鳥居を見ている。
あそこには何度か行った記憶がある。ただ、ルリはこういうところにはめったに来ないのだろう。人力車を引く男衆が大きい声で呼び込みをしているが、アルマは捕まりたくないと思い、ルリの手を掴む。
その時、ルリは驚いた。今日はあれ程にしけしけな対応だったアルマが突然に積極的になったからだ。大きな掌がルリの繊細な手を握って、前へ向かって行く。
その後ろ姿に、ルリは心をより惹かれていく。
鳥居をくぐり、手を解いたアルマは、自分の行為に赤面する。
(藍羽さんの手を握って……! いや、確かにもうオレは藍羽さんのことが好きだけどでもそんなこんなに図々しくも握って……嫌われないよね……っていうか今のオレかなりかっこ悪い……)
「アルマさん!」
現実に引き戻す声は、ルリの声。
「あ、あ、藍羽さん」
「行きましょう!」
アルマの予想に反し、ルリはとても幸せそうだった。
「藍羽さんは何をお願いしたの?」
手を離したまま、鳥居を抜ける二人。
「秘密です! 女の子には色々、言えないことがあるんです!」
そ、そうだよな、とアルマは頭を掻く。
「……で、アルマさんは?」
ルリは、アルマが聞いたことと同じことを尋ねる。
一度アルマは顔を逸らす。
願い事は言っていいのか。言ってしまってはいけないんじゃないか。そんなことが頭の中に過った。
でも、願い事じゃいけない。掴まなきゃいけない。アルマは決心する。
「今年中に……ルリさん……って、呼び続けられるように……」
口を手で押さえるアルマ。酷く赤く染まった顔に、ルリは笑った。
「アルマさん……ありがとうございます! 私、嬉しいですよ!」
ルリが明るく笑ってくれるのは救いだった。もしも変に思われていたらどうしようとばかり悩んでいたからだ。
そして、ルリはアルマの目を見て、言った。
「じゃあ、待ってますね。アルマさんが、私の名前で呼んでくれることを」
藍羽さん。
アルマが次に言った言葉はこれで、ルリはホッとした。無理に変わらなくても、アルマはアルマで十分だから、と。
end.
―――――――
アルルリみたいなカップルになりたい。恋人がいれば。
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