流星のスコール
「この時間なら、外に出ても大丈夫だね」
ジャンゴは無邪気に笑う。キラキラ瞬く星は気ままに、空を彩っていた。
隣に立つサバタへ、目を移す。彼もまた、憂いた空を眺めている。
その先に見える、月。半分に割れて、片方は眠っていた。
「今日は少し冷えるな」
サバタは低い声で言う。風でふわりとふたりのマフラーが靡き、交わる。
ジャンゴは首を押さえて、微笑んだ。
こんなに心を穏やかにして、風を感じられるのはいつ以来だろうか。
「本当は全然気にしてないくせに」
「それがどうした」
「サバタってば冷たい」
唇を立てて、ジャンゴは愚痴を吐く。
隣で表情を崩すことなく佇んでいるサバタ。ジャンゴはつれない兄の横顔に瞳を向けた。
綺麗だな、それが率直な感想。
血が繋がってるとは思えない。ガラス人形のように繊細で、それでいて強さを感じる。
まだまだこのままではいけないなと、ジャンゴは小さな掌を握った。太陽程ではない温もりが肌を駆け抜ける。
「なあ、ジャンゴ」
「ん?」
「……いや、何でもない」
「なんだよ、変なサバタ」
「ふっ……」
突然問いかけたかと思うと、何かを悟った顔をして言葉を飲み込んだサバタ。
ジャンゴがおどけて見せると、サバタは少し顔を崩して笑った。
その笑顔がやけに可笑しくなって、ジャンゴもつられて笑う。それにムッとしたのか、サバタはまた、元の表情へ戻った。
「今のちょっと気になった?」
「別に」
「ホント?」
「うるさい」
「ホントのホント?」
「いい加減にしろ」
決して手は出さない。ただ、兄の叱責がそろそろ殺気立って来たので、ジャンゴは大人しく空を見上げた。
そこで目にした光景に、目を疑った。
真夜中のスコール。
無数に黒を切り裂いた雨が、二人の頭上を流れている。
ジャンゴは無邪気に手を伸ばす。一滴でも拾えそうな気がしたからだ。
「わあ、綺麗だ!」
「ふふ、こんなもので喜ぶとは、まだまだ子供だな」
「だって子供だもん」
こんな綺麗な世界で生きているんだ。
素直な感情が揺れ動く。ジャンゴは感嘆の声を漏らした。
サバタもまた、目線は空を射抜いている。心が育っていても、まだまだ少年の姿は残っている。
「ねえ、サバタ」
「何だ、ジャンゴ」
「えっと……ううん、ごめん、なんでもないや」
「ふっ、能天気にも程があるぞ」
「そっちだってさっきはだんまりしたくせに」
言い合っている気がしなくても、ジャンゴは兄と交わっている気がしていた。
これから何が起こるかはわからない。それでも、今、この一瞬だけは変わらない。
流星のスコールが止む前に。
「これからもよろしく」
声が重なる瞬間。
星は、夜に泣いていた。
[*前へ][次へ#]
無料HPエムペ!