[通常モード] [URL送信]
lost my world
 塔の頂点から見下ろす影が可笑しくなって、ダーインは笑った。
「太陽を失ったキミを、ボクは手に入れたい」
 舌を舐める。あの時の感触が残っている唇。同じ二重螺旋が絡み合った瞬間。
「キミは、その目で何を見る? その先に、甘ったるい希望はある?」
 ここまで来れるものなら、来ればいいさと、ダーインは踵を打ち鳴らした。
 目覚めの時は近い。
 これで、世界を衰退させる原因となった人間を排除できる。
 そして、銀河意思が委ねるままに、太陽を飲み込むことが出来る。
 全てが叶う瞬間に立ち会える。これ程までに喜ばしいことはない。
 ない、はずだ。
 あの少年が、再び太陽を取り戻さなければ。
 ドゥラスロールの言葉が、時より頭をよぎる。ダーインは首を傾げる。
「それほど、ボクは彼に入れ込んでいただろうか?」
 太陽と月、二つの命が流れたジャンゴの身体を、利用する手はなかった。何よりも、残された希望を断ち、新たに生み出される絶望をこの手に収めることが出来るなら、心強い。
 そのつもりだ、きっと、そのつもりだ。
 ダーインは己の身体でない、己を見つめ、嘲笑した。


 その先に何が残る。
 電波が脳を貫くように、まるで自分の声が、呼応する。
「な、何を言っているんだ、今更。ボクは」
 ボクは。
 銀河意思の赴くままに、この生命種を、終焉に向かわせるのみだ。
 永遠を拒むのなら。錠の落されない、針の止まらない時を刻むことを、嫌がるのであれば。
「そのために、ボクは彼を……ジャンゴを手に入れたいだけだ」
 眩いばかりの光が、そんなビジョンを歪めてしまうからか。
 まただ。
 違う。ダーインは首を振る。
「違う、そうじゃない、ボクはただ」
 そうだ、ただ、純粋に力を手に入れたいだけだ。共に永遠を手に入れることを、望んでいる、だけだ。
 なら、何故、共に手に入れることを望む。
 ダーインは胸が苦しくなる。
 訳の分からない感情に、そして、そもそもこんな感情という、煩わしいものが溢れてくることに。星を覆い尽くさん、輪廻の輪に流されるままの生命種と同じ、けがらわしい心が。
 頭を抱え、ダーインは膝をつく。もう、もうここに、ジャンゴはやってくる。
「ボクは、ボクはただ……ジャンゴのことが……欲しい、それだけだ」
 息をのみ込むように、影を掴むように。ダーインはまた、舌を出す。
「ボクらの、黒き太陽に……!」


 何を戸惑ったのだろう。
 何を誤ったのだろう。
 ダーインはジャンゴの目に、手を覆い被せる。
「嫌なら見なくてもいいさ。こんな世界、キミには相応しくない」
 自分でも、可笑しなことを言っている。ダーインは笑う、自分に対して。
 何を躊躇ったのだろう。
 何を見失ったのだろう。
 すっかり光を失ったジャンゴの世界を覆うように、ダーインは黒い闇と共に、ジャンゴを離さない。
「もう、この世界にはボクとキミだけさ。その涙が枯れずとも、もう、キミはボクからは逃れられないよ」
 希望を手放したジャンゴに、選択肢はない。
 絶望を手渡したダーインに、選択肢はない。
 お互いに、決まっていたのだ。初めから。
「このまま、ボクの中でおやすみ」
 もう、その目から涙は零れなくなる。
 もう、その耳には音が聞こえなくなる。
「ボクがそうだから。キミもそうなるさ、きっと」
 ダーインは、そう言った。数秒後に、永遠が、一瞬だけ止まった。
 こんなものが流れるんだ、ダーインは、可笑しくなって、笑った。



end.
―――――――
そうだよ、だじゃんだクラスタは自給自足だよ。その2,
でも僕はジャンダー書き。


[*前へ][次へ#]

あきゅろす。
無料HPエムペ!