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光が降る、影が生まれる
 珍しく、朝早く目覚めたジャンゴは、まだ明けない夜空を見る。美しい藍色が広がっている。
 ボンヤリと眺めるジャンゴは、まだ肌寒い外へ出る。影に包まれた世界は、少し恐ろしい。手を伸ばしても届かない光。どこかにあるのではと探してしまう。
 影に飲み込まれないように。闇に心を奪われないように。そんなことだけを考えてきたあの頃。翳した掌で命を土へ返した。それが正しいのか、間違いなのかはわからない。ただただ、星屑のように輝く最後の一瞬までを、その瞳に焼きつけ続けた。
 自らの手で焼きつくした命の灯り。赤く、青く、緑に、黄色に、その命の色が移ろう。決して取り戻せない時間。
「でも……」
 でも、今は大丈夫だった。
 夜が来ても、明けない夜が来たとしても、今はきっと生きていける。
「おはよう、今日はずいぶん早起きなんだね」
 その声はまるで暗い空から降ってくるように。その声はジャンゴの足元からぬるりと這い上がってくる。
「おはよう、ダーイン」
 姿は見せてくれないが、傍にいることをジャンゴは知っている。何も言わず、どんな時も寄り添ってくれるダーインは、今日とてジャンゴの近くで見守ってくれている。笑っている時も、泣いている時も、ずっと見られている。うかつに変なことは言えない。
「今日は少し元気がないね。なにか悲しいことでもあったのかい?」
 そう言われ、ジャンゴは自分の頬を揉み解すように両の手で触る。強張っている感じはしないが、ダーインが言うのであればそう見えるのだろう。確かに、幸せになるようなことを考えてはいなかった。それもお見通しだ。
「悲しいことは、この世界にはたくさん落ちてるよ」
 この世界の全てを悟ったようなことを言ってしまう。そればかりではないことをわかっていながら。どうしても、落ち込むときはそんな想いで頭がいっぱいになってしまう。
「どうしたんだい? いつもならそんな弱音を吐かないのがジャンゴでしょう?」
 陽が昇り始める。藍色の空が徐々に橙を満たしてくる。
「そ、そうだよね」
「ボクはジャンゴのそういう姿も好きだけどね。人間は不完全なんだってことを、思い知らされるから」
「そ、それってどういうこと?」
「こういうこと」
 光が顔を出す。ジャンゴの影が、光によって生まれる。そしてその影から、ダーインがぬるり、這い出てくる。
「うわっ」
 背中側に伸びたジャンゴの影。ダーインはジャンゴの後ろに立つと、そのままジャンゴの肩に手を置いた。
「ふふ、驚いたでしょ」
「や、やめてよ」
 温かさは感じない。冷たい温度が冷ややかな朝に伴って血と共に流れていく。
「ねえ」
「?」
「ありがとう。僕の影でいてくれて」
「何を言っているんだい。ボクの太陽はキミさ。光があるから影がある。ボクがこうしていられるのはジャンゴのおかげさ」
「でも、もし僕がダーインのことを忘れたら」
 その先は言う必要なんてない、ダーインはそう言いたいのか、体重をジャンゴの方に預けてきた。
「ジャンゴはボクを、忘れられないから」
 何処にそんな自信があるのか。ジャンゴは問おうとして、やめる。
「それに、ボクが忘れさせない。ジャンゴが死ぬまで、絶対に忘れさせないんだ」
 嬉しいような、悲しいようなことを言われ、ジャンゴは唾をのみ込んだ。落ち着かない目覚めは、悪くない。
「じゃあ、ずっと見守っててね。ダーインのこと、大好きだから」
 ダーインがどんな顔で、ジャンゴを見ているのかは、決してわからない。
 ダーインは――。




end.
――――――
朝早起きしたのでSS書いた……勉強しろよw
でも朝からなんかいいの書いた気がする。


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