Slow Life
姉ちゃんは友達とライブに行っている。
お母さんはいつも通り忙しくて帰って来そうにもない。
だから、今日は静かだ。
そして、暇だ。
――――
「軍曹〜? 何してるの?」
コンコンとドアをノックする。季節は春になったが、地下は少し冷える。軽い身震いをした。
「何もしてないであります。暇だから冬樹殿、どっか行かないでありますか?」
ケロロは全てを言い終わってからドアを開けた。だらし無い姿を見せ、こちらに歩いてくる。
「そうだね……じゃあ、キャッチボールでもしに公園へ行こうか」
「了解! であります!」
こうして、持て余していた時間が少しずつ形になっていく。
冬樹は自分の部屋へゴムボールとリュックを取りに行った。ケロロでもしっかり捕れるものと、すっぽり入れられるリュック。定番中の定番になっている。
二人は人気のない道を進む。休日の午後にもかかわらず、自転車一つ通らない。
「こんな日なら、アンチバリアがなくても大丈夫かもしれないね」
「確かに。でも、いつ、人に見られるかわからないし……」
冗談っぽく言ったことを、意外にケロロは真面目に受け止める。このような部分がいつも可笑しくてたまらない。
「軍曹ってさ、大人だよね?」
「何言ってるでありますか!? 我輩はれっきとした、大人でありますよ」
ほら、また怒った。
隣には、見知らぬ世界にいたはずの侵略者がいるなんて、誰も信じないだろう。
冬樹ですら、たまに疑う時がある。ケロロがここにたどり着いた理由が、地球侵略だなんて。
談笑に浸っている間に、二人は公園に着いた。葉桜になりつつある桜の木は、少し寂しく佇んでいる。
「じゃあ、投げるよ」
キャッチボールなんて、ケロロが来るまではしばらくやっていなかった。それが今では、飽きるほどに繰り返されている。
「たまには、冬樹殿も本気で投げたらどうでありますか?」
何球か投げた後、ケロロは冬樹にそのようなことを要求した。本気で。キャッチボールなのに、本気で。
冬樹は、一度振りかぶって投げてみた。ゴムボールは少ない力で変形して、宙を舞った。
「冬樹殿! どこ投げてるでありますか!?」
「ああ……ゴメンゴメン」
やっぱり、運動って難しいな。
冬樹は、ボールを追うケロロの姿を見る。小さな背中が少し大きく見えた。
何故かこの瞬間だけ、ケロロは大人なんだろうなと思ってしまう。冬樹は大きく、息を吸い込んだ。
陽が傾き始める頃に、二人は帰路につく。ケロロは冬樹が背負うリュックの中にすっぽりと入っている。
「帰ったらご飯作らないとね」
「そうでありますなぁ。シチューなんてどうでありますか?」
「あ、それ名案!」
あれほどダラダラと過ぎていた午前中が嘘のように、午後は早く過ぎていく。献立を決めることですら、盛り上がる。
「とりあえず、野菜と鶏肉買いにいこっか」
「了解であります!」
――――
今日も、姉ちゃんはいない。
お母さんも忙しいから帰って来ない。
そんな時は、また彼に逢いに行く。
「軍曹」
彼はいつも、笑顔だ。
end.
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あの家族好きです。のほほんのほほんの二人はもっと大好きです。
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