虹
「三橋! 久しぶり!」
「ひ、久しぶり!」
それは本当に偶然だった。群馬に帰省して3日目。今日の昼過ぎには帰る予定だった。
三橋と叶の再会。
二人ともうれしかった。久しぶりに見る互いの顔、呼吸、鼓動、温もり。こうして野球以外の形で会ったことで、二人はいつもとは違う姿を見ることができた。いつもは感じられないものを感じられた。
「どう、調子は?」
「まあまあ、かな。叶君は?」
「オレもそんなに…まあ、マウンドで投げれるのはすごく楽しいよ」
よかった。叶君が投げれて。
中学の時はオレのせいで、きっと楽しくなかっただろうから。きっと………。
三橋の頭の中に渦巻く罪悪感。大分マシにはなったが、今でもたまに顔をだす。三橋がなかなか次の言葉を出せずにいるのに気付いた叶は、三橋のことを少し考えてみた。
三橋が中学の時は、誰にもわかってくれなかったから、誰も助けてやらなかったから、きっと、オレが思ってる以上に辛かったんだろうな。きっと………。
気まずい雰囲気。別にお互いを傷付けるようなことを言ったわけでもないのに。
「じ、じゃあ、また……」
三橋はそう言って帰る…というより、逃げようとした。しかし、叶は三橋の腕を掴んで引き留めた。
「なぁ、キャッチボール、やろうぜ」
こうしてキャッチボールをすることなんてあまりなかったのかもしれない。素手だから痛いかなと思ったけど、意外に痛くないんだな。それに…、
―――あったかい…。
「叶君は、オレのこと…どう思ってる?」
「オレは三橋のことスゲー投手だと思ってる。先発で完投するのはしんどいけど、三橋はそれができるし、何よりお前の努力は誰にも負けないよ」
野球が好きなところが、何よりも好き。こうしてキャッチボールしてても、伝わる鼓動。高校変わっても野球続けてて、本当に良かった。
「なあ、今の高校は楽しいか?」
「うん! 楽しいよ!」
「野球も?」
「うん! 叶君は?」
「オレも。楽しい。スゲー楽しい。でも………」
「ど、ど、どうか…した?」
「何もないよ。てか、今日は会えて良かったよ」
「オレも!」
時は過ぎ、別れの時間となった。三橋はバイバイと言うと、何度も叶を見ながら帰っていった。
会えて良かった。
でも、やっぱりさ。
―――三橋と野球、したかったよ、オレは。
―END―
【あとがき】
久しぶりの再会をイメージしました。
やっぱり叶君は、三橋君と野球したがってたに違いない!
まあ、高校の間はこの間合いがいいのかもしれないけど。
そう考えると、意外と三橋君はキッパリしてますね。
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