インターバル
「草薙さん、いいの? 勝手に決めちゃって」
カウンター席に腰掛けながら十束多々良が問う。
「勝手にって、ここは俺の店や。それに……」
草薙出雲は少女たちが上がって行った二階を見つめ、しばし思案する。
「アンナが手を繋いでるなんて、よっぽどのことや」
草薙はジッポで煙草に火を点け、遠くに向けて煙を吐いた。
「そうだね……」
カウンターに置いてあった小物を指で弄びながら、十束が応える。
一年前の事件から、アンナが人を傷つけてしまうことを怖れるのは明白だった。十束は当時燃えるように痛んだ指先を見つめる。
「会ったばかりなのに、そんなに信頼されちゃうなんて、ちょっと嫉妬かも……」
不貞腐れて、十束はカウンターにしな垂れかかる。
アンナは警戒心が強く、心安くなるまで親しまれやすい十束でも時間を要した。
「同性の気安さなんやろ」
「やっぱりそれかな……俺も女の子に生まれればよかった」
「気持ち悪いこと言うなや」
珠里を泊めることにしたのには、もう一つ、理由があった。
アンナにはまだ『母親』の存在が必要なのだ。二度も失った存在でも、まだ。
成人もしていない少女にその役目を押し付ける自分は残酷だろうか。草薙は深く煙を吐く。
「ていうかキングも一緒に住むことになるよね?」
「……まぁ、アンナの手前何も起こらんやろ」
若い男女が一つ屋根の下で暮らすというのに、本当に何も起こらなそうなのは、逆に異常だった。
「弥栄珠里、か」
「調べる?」
「当然やろ」
偽名かもしれないが、調べてみる価値はあった。出会った経緯や感応能力を持つアンナの懐きようから見て、スパイである可能性は低いだろう。しかし素性が明らかであるのとないのとでは雲泥の差だ。
できることなら、敵であって欲しくなかった。
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