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第一話4
 男は歩くのが早い。そして子どもは歩くのが遅いのだ。

 私がアンナちゃんに合わせてゆっくり歩いていたところ、すっかり前を行く集団を見失ってしまった。途中で話し掛ければよかったのかも知れないが、その、度胸が足りなかった。

「アンナちゃん、道分かる?」

 こくりと頷き、アンナちゃんが私の手を引いてくれる。情けない。

 そんな形でしばらく進んだ時、何故か前ではない方向からスケボーに乗った八田さんが現れた。

「おい! ったくなんでまだこんな所にいんだよ」
「八田さん」

 スケボーを器用に操って、私たちの歩くペースに合わせる。

「ったくよう、のろのろしやがって」

 話している間、八田さんは正面を向いたまま、私たちとは距離を取っている。原因も分からず嫌われるのは悲しい。

「ごめんなさい」

 私の態度は、どうやら八田さんの神経を逆撫でしたらしい。顔はこちらに向けず、横目で睨まれる。

「お前、言いたいことがあるならはっきり言え。アンナのペースに合わせないお前らが悪いんだくらい言ったらどうなんだ?」
「す、すみません」

 怒られてしまった。八田さんは溜め息。

「こっちは草薙さんに怒られてんだ、こうして探しに来てる」
「……怒られたんですか」
「うるせー」
「えぇっと、迎えに来てくれてありがとうございます」

 深くお辞儀する。八田さんは虚を突かれたようで、ようやく私の方を向いた。とりあえず顔を上げて会釈。
 しかしすぐにそっぽを向かれてしまう。距離詰めは失敗。

「おい」

 落ち込む私に八田さんが掌を上にして手を差し出す。その意味は?

「なんで手を載せるんだよ!」

 払われてしまった。

「荷物だ荷物!」
「えっ!? 私のですか?」
「それ以外何があるんだよ、重い荷物持つのは男の役目だろうが」

 そうは言われましても。

「えぇっと、これは私の個人的な荷物で……」
「いいから寄越せ! 女が荷物運んでんのに男が手ぶらとか格好つかねぇだろうが」

 経験上、これ以上拒否すると拗れるのは目に見えているので、従うしかないようだ。

「アンナちゃん、一旦手を離すね」

 長い間黙っていたアンナちゃんは、沈黙を破らずこくりと頷く。
 リュック背中から下ろし、出された八田さんの掌に上の紐を掛ける。
 がくん、と八田さんがバランスを崩す。とっさにリュックを下から支え、事なきを得た。

「なんだこれ、何が入ってんだ?」

 目を白黒させて私に問う八田さん。

「えぇっと、いろいろです」
「ふーん、まぁいいか」

 八田さんは私のリュックを背負って歩き出す。小学生とか思ったことは黙っておこう。

 嫌いな私にも優しくしてくれるなんて、いい人なんだな。だからあんなに慕われてるのだろうか。

 八田さんと少し距離をおいて、アンナちゃんと手を繋いで、歩いて行く。
 一人じゃないのは、素敵だ。

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