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第一話3
 蚊帳の外に追いやられた私は、手持ち無沙汰なのでアンナちゃんと対話を試みることにした。

「ねぇ、アンナちゃん……」

 振り返るとアンナちゃんはもう私の服を掴んではいなかった。じーっと自分のドレスを見下ろしていたのだ。
 その部分だけ色が違っている。なるほど。
 私がドレスに触ると、アンナちゃんは驚いて私をじっと見つめた。

「大丈夫だよ、これなら取れるよ」

 うっ、このドレスいい生地……

「ホント?」

 アンナちゃんが小首を傾げる。ホントにかわいいなぁ。

「ホントホント」

 まだ湿ってる。私はポケットからハンカチを取り出し、ポンポンと染みを叩く。ジュースの色がハンカチに移ってきた。赤い色。

「はい、あとは少し水で流せば大丈夫だよ」
「……どうするの?」

 アンナちゃんは思案顔だ。まだドレスに染みが残っているせいかもしれない。不安なのだ。

「教えてあげるから、大丈夫だよ」

 乗り掛かった船だ。

「よかった……」

 アンナちゃんは安堵の溜め息を吐く。

 さて、問題はこっちだ……
 八田さんはそろそろ説教のネタが尽きてきたらしく、それだとかあれだとかの指示語が増えてきていた。

「あのー……」
「あぁっ!?」

 私が後ろから話し掛けると、八田さんは苛立たし気に振り返った。あんまり怖くない。

「アンナちゃん帰るって」

 八田さんは拍子抜けした顔をして、鎌本を始めとした男たちは解放を喜んだ。

「ならいい! 帰るぞ!」
「はい! 八田さん!」

 男達が声を揃えた。
 私もリュックを背負って彼等に続く。

「行こう」

 アンナちゃんに手を差し出す。少し逡巡したが、おずおずとアンナちゃんは私の手を取った。まだ少し違和感のあるドレスの染みを抑えるアンナちゃんと手を繋いで歩き出す。休息を取ったからか、焦ってないからか、荷物はもうそこまで重くは感じない。

「って、なんでお前もついて来るんだよ!」

 先頭から八田さんが戻ってきて、私に問う。行く宛てがないから、とは言えない。

「アンナちゃんと約束したので……」

 あのドレスをそのまま洗濯機に入れてしまわないか心配なのだ。

 八田さんはじろじろと見定めるように私を見て、結論が出たらしく鼻を鳴らす。

「しょうがねぇな」

 八田さんはすぐにそっぽを向いてしまう。嫌われてしまったみたいだ。

 しばらく無言で歩いていると、アンナちゃんに繋いでいる手を引っ張られる。

「名前……」
「名前? 私の?」

 こくりと頷く。

「そっか、名乗ってなかったっけ。私は弥栄珠里」
「シュリ……?」
「そう、よろしくね」

 私が微笑むと、アンナちゃんも口の端だけで小さく微笑んだ。先ほどの態度を見てなければ、人形みたいな子だと思ったかもしれない。でも彼女はれっきとした女の子だ。

「おい弥栄」

 突然、前を歩く八田さんに声をかけられる。どうやら会話に耳を澄ませていたらしい。

「はい?」

「こいつが認めたから、仕方なくアンタを連れていくが、これは特例だからな?」

「はい、身の程は弁えておきます」

 私が会釈すると、八田さんはおもしろくなさそうにして鎌本の方へ言ってしまった。

 そういえば、どこへ行くのか、そもそもこれはどういった集団なのかすら、知らないままなのだが、アンナちゃんは無口だし、他の誰かに訊こうにも、誰にも話し掛けられないまま、私は彼等に続いて歩くしかないのだった。

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あきゅろす。
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