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短編
日常のひとコマ











窓から差し込む光に目を眇めて楸瑛は起き上がる。
ちらりと隣の寝具を見る。

(また絳攸に怒られそうだ)

もしかしたら怒られたいのかもしれないが。
藍将軍、と目を覚ました女に呼ばれ優しく答える。
お互いに感情なんてないこの時間が楸瑛は好きだったが、同時に嫌いだった。

(理由なんて…はっきりしてるんだけどね)

女が再び眠ったのを見て、自嘲気味に笑う。
心から抱きたい相手が出来てしまった上で、違う人を抱けば自分の意志とは関係なく、重ねてしまう。
彼はどう乱れるのかそれを考えただけで体の中心が熱を持つ。
そんな状態で純粋に行為のみを楽しめるわけもなく、拭いきれない罪悪感みたいなものが付きまとう。
重症だ、小さくそう呟き手早く着物を身につける。今日も仕事だ。





「おはよう絳攸」

「ああ、お前か」

「お前かって酷いね」



出仕前に絳攸の姿を見つけ自然に顔がほころぶ。
どうせ迷子になっていたのだろうけど、絳攸の矜持を傷つけないためにさりげなく目的地へ歩き出す。




「ねえ絳攸、今夜少し付き合ってくれないかい?」

「今夜か?お前にしてはいきなりだな、どうした?」

「別に愚痴があるわけじゃなくてね。君と飲みたいだけだよ、可愛い人」

「黙れ常春っ!」




その罵倒が本気の怒気のこもらない声だと気づいたのはいつだったか、楸瑛はおもむろに腕を伸ばして絳攸の耳に触れた。




「きっと君も、知ってしまえば抜け出せなくなるよ」

「俺はそんな節操無しなことはしないぞ!そもそも女は無理だ」

「だからそう言う言い方をすると誤解されるよ?」




ほら、今も。
すれ違った武官が期待のこもった眼で絳攸を見て行った。
不愉快だから見るなと言いたいが、今の楸瑛にその権利はない。
友人として注意だけしておく。




「だいたい君、女性が無理ならどうするんだい?」

「別にそれをしなけりゃ死ぬって訳でもないんだから大丈夫だ。お前の頭はそれしかないのかまったく!」




それしかないんだよ。君を抱きたくて仕方ない。
熱を持て余す初な少年でもあるまいに、絳攸を前にするとどうしようもない欲望が渦巻く。




「なら男とはできるのかい?」

「はぁ!?」

「君くらい可愛かったら男の相手だって尽きないだろうけど…」




完全に怒った絳攸の表情を見て、楸瑛が言葉を止める。
その手の男に狙われかけたことは、今ではもうないが、以前は何度かあったらしい。
本人の口から聞いたわけではないが、噂でそれを知っていた楸瑛は失言だったかと申し訳なく思った。
素直に謝れば彼の心を傷つけるだろうと踏んだ楸瑛は冗談めかして続ける




「でも、そんな時はまず私に声をかけるんだよ。君の相手なら喜んでするからね」

「一度医者へ行って頭の中見てもらってこい!」




案の定いつもの調子で怒鳴った絳攸に自然と楸瑛が微笑む。
知的な面では決して単純とはいいがたい絳攸だが、反応は素直で可愛らしい。
言いよる男が居なくなったわけでなく、意図的に排除されていっている状況からみれば絳攸のそういった面は危険極まりなかった。




「きっと脳の中は君のことでいっぱいだよ絳攸」

「、そういうことばかり言うからお前は…っ」




いつまでたっても常春なんだ!
そう怒鳴った絳攸は付き合ってられるかとばかりにずんずんと先へ歩き出す。
その背中にいつものように声をかけ、楸瑛は後を追った。






日常のひとコマ
「ああ、そっちは執務室じゃないよ!」「…っあの花が綺麗だったから見ていただけだ!」





END




>思えば楸瑛片思い(笑)
このあとくっつくってことで。
何が書きたかったのか…

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