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愛しき殺し屋
まだ死ねない


真雪は榊にした話を再度、ライカ達にも説明した。
話終えたと同時に榊が二人を呼び、怪訝な顔の和泉と顔色を曇らせるライカは部屋から出て行った。


「……私、こんな所で何してるのかな」


親切心から自分を引き取ってくれたと思っていた叔父達に騙されたばかりで、人の親切に戸惑いを覚える真雪は身体中の関節が悲鳴を上げているがとても落ち着いて寝ていられなくなった。

生きていても、もう希望の欠片すら持てなくなった真雪は、ふらつく身体に渇を入れベッドから降り立った。
よろける足を壁に伝いながら、どうにか前に進む。
死に場所を求めるため部屋から出ようとドアに近付くと、榊がノックと共に入ってきた。


「物音が聞こえたと思ったら……まだ起きちゃ駄目ですよ?ほら、フラフラじゃないですか」


まさか真雪が起きているとは思わなかった榊は驚いた様子で真雪の肩に手を置き、眉根を寄せて苦笑いを浮かべた。


「もう少し横になっていた方が良いですよ」


そう言って真雪を軽々抱き上げると、ベッドに優しく降ろした。
有無も言わさず強引ではあるが、真雪に触れる榊の手は壊れ物を扱うように丁寧だ。


「でも……」


それでも自分の意見を通そうと僅かに身体を起こし、榊を見つめた。


「真雪を殺す代わりに、仇討ちをしてあげましょうか?」

「……仇討ち……ですか?」

「真雪のご両親は自殺なんかじゃありませんよ、あれは……殺されたんです」


榊の衝撃的な話に、真雪の思考回路は一瞬停止してしまう。

やはり両親の死は自殺ではない……、そう思えば真雪の心に何かが沸き起こる。
両親を殺した人間をこの手で探し出し、両親の無念を晴らしてあげたい。

生きる意味を見出せた真雪は、微かに身を震わせながら弱った身体に力を入れた。


「あまり驚いてませんね」

「これでも驚いているんです。……ただ、やっぱり自殺じゃないんだなって」

「何か思い当たる節でも、あったんですか」

「私から見ても、両親の仲はすごく良かったんです。母は身体が丈夫でなく、私を産むのも命がけだったと聞きました。父はそんな母を気遣い、一人でも家族を増やしてくれたと、母にとても感謝していました。だから一人娘の私を、両親はとてもかわいがってくれましたし、私の花嫁姿を見てからじゃないと安心して死ねないって、母がよく言ってました。そんな両親が私を残して、自殺なんて考えられないんです」

真雪自身、自惚れとも取れる絶対的な自信は両親に愛されて育ったと言うたくさんの思い出からだ。
力強い声をか細い身体から出す姿に、榊は何度も頷き静かに聞いた。


「……なるほど。仇討ち……と言うのは建前、実際は仕事なんですけどね」


榊は含むような笑いをし、ベッドの近くにある椅子に座った。


「真雪が倒れる前に見てた事、まだ覚えてますか?」

「……え……と、和泉くんがナイフを持って、誰かを……」


一旦死ぬ事を恐怖の対象と思わなくなってしまった真雪にしてみれば、人を殺す現場を見た時の心象はさほど悪いものではなかった。
多少の生きる糧を貰った今でも、それは何ら変わりはない。


「では、私達がしていた事は何だったか……わかりますよね」


榊の言葉に漠然と見ていたあの光景を思い浮かべ、真雪は無言で頷いた。


「では、これからはここで一緒に暮らしましょう」


驚きの連続の真雪は再び顔を上げ、目を丸くする。


「あの……ここで、一緒に……?」

「真雪は住む場所あるんですか?お金はあるんですか?」

「……それは」


真雪の持ち物と言えば財布だけ、それも中身は数万円程度。
この金額でこれから新たな生活をしようと思えば、かなり心もとない金額だ。

しかも叔父の家を出てきてしまっていて、今まで両親と住んでいた家は叔父の手によってすでに処分されていた。
真雪には帰る家など、何もない。

俯いていた真雪に、榊は手を組み合わせ身を乗り出した。


「悪いようにはしません。私達の仕事も知ってしまった事ですし、ちょっと協力してもらいます」


穏やかに微笑む榊に真雪は力なく頷いた。

そしてこの日から、この男達との奇妙な同居生活が始まった。




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