「……マジかよ」 もっと簡単な話だとばかり思っていた慎哉は、口を手で覆い二の句が出ないでいた。 だから言いたくなかったとばかりに、榊は大きくため息をつく。 「その話をしていた時の真雪は見ていられませんでした。初めて真雪と出会った頃より痛々しくて……その後すぐに九条に連絡したから、詳しく話せませんでした」 「そっか……。お気に入りの子猫ちゃんがそんな事になってれば、住人達も普通じゃいられないか。でもそんな事で今回の仕事大丈夫なのかよ。榊のポリシーは“私情を挟まない”だろ?」 「それは大丈夫ですよ。ただ心配なのは真雪です。決行日はこの屋敷が無人になってしまい、留守番の真雪に不審に思われないかと」 心配そうに眉尻を下げ目を伏せる榊の目下の悩みの種である。 「なんだ、子猫ちゃんは連れて行かねーの?」 「自分の敵達がいる所に連れて行っても、真雪は辛いだけでしょうし。巻き込まれる危険もあります。それに私達の仕事を見せるのは、皆望まないと思いますしね」 「でも子猫ちゃんにバレたらついて来るんじゃね?」 「そうなんですよ。ついて来そうで……悩み処です」 痛くなる頭に手をやり、榊は仰いで大きく息を吐き出した。 「皆に話して相談してみりゃいーだろ?誰かしら子猫ちゃんの側にいれば良いんだから。あっ、俺を当てにするなよ。俺が側に居たいのは山々なんだが、お前等の掃除の準備に忙しいからな」 「誰も九条に頼むつもりはありません。貴方に頼んでそのまま、真雪を連れ帰りそうですしね」 顔をひく付かせ、苦笑いを浮かべた慎哉は頭を抱えた。 「おいおい、俺はそんなに信用ないわけ?」 「そうですね」 さも当然のようにあっさり答える榊に、慎哉はショックを隠しきれない。 「かれこれ十年以上も付き合いのある俺は傷付くぜ?」 「貴方も真雪を気に入ってるんでしょう?そんな人が真雪の側にずっと居るとわかれば、皆は仕事場に連れて行くと言うでしょうね」 |