翌日、朝食準備をする凛に昨日の失言を頭を下げ詫びた。 凛は気にしてないと言っていたが、それでも真雪の気が済まないからと力説をし、暫く謝り続けていた。 朝食を終え、後片付けをして部屋に戻ろうとすると部屋から出てきた和泉と出くわした。 「――っと、ちょうど良い。真雪、ちょっといいか?」 「良いですよ?」 いつものようなパワーの感じられる様子はなく、戸口でコソコソと手招きをする和泉に困惑しながらも部屋に通された。 「どうしたんですか?」 「んー、あのさ、ライカの家の事聞いたんだって?」 言いにくそうにしていた和泉は髪に無造作に掻き上げながら、気になっていた事をぶつけた。 「聞きましたよ、殺しを生業にするお家って事ですよね?」 「そ、何とも思わなかったのか?」 「特には……」 「ライカには言わないから正直に言ってみろよ、何とも思わないわけねーだろ?カタギのお嬢がそんな事いわれて」 和泉はソファーに浅く腰をかけたまま前のめりになって真雪を見据え、僅かな揺らぎさえも逃すまいとその表情を眺めた。 真剣な視線を向けられた真雪は少し考えるものの、息を一つ吐いてゆっくりと口を開いた。 「……それは、確かにびっくりしましたよ。でもライカくんはライカくんです。怖いとか、嫌いだとかの感情は一切持ってません」 きっぱりと言い切る真雪に、和泉は瞼を閉じて大きく息を吐き出した。 よほど緊張していたのか暫く瞳を開こうとはせず、背もたれに身体を預けて顔を右手で覆った。 「ライカからさ、家の話を真雪にしたって言ってたからビビッた。アイツいつもヘラヘラしてっけど、実家にいた頃は普通に話しかけてくれる奴なんていなかったんだ。地元じゃ有名な一家だったから」 隠していた顔を露にした和泉はどこか哀愁を帯びていて、いつもの軽薄な表情を一切みせない。 真雪は和泉が話す言葉に耳を傾け、微かに伝わる緊張に呑まれ始める。 「寄ってくるのは同業者ばっかで、そんな奴等からも一目置かれるような存在だったんだ。だから、実家の事とかあんま言いたくないんだよな。ライカに普通に接してくれる奴なんて俺等とかしかいないから、それこそ一般人では真雪が初めてだな」 目立つ存在ではあるだろうと多少思ってはいたものの、そんな過去があったとは知らず、軽い気持ちで言った訳ではないんだと真雪はライカの気持ちを考えていた。 そして言いたくないような事でも自分に話してくれたと考えると、少しでも信用してくれていたのだと少し嬉しくもあった。 「和泉くんはライカくんが心配なんですね」 ライカの身を思う和泉を微笑ましく思い、思わず笑みが零れる。 真雪の問い掛けに身を任せていた背もたれから身体を上げ、いつもの不敵な笑みを見せた。 「んー、まぁ、俺の弟みたいなモンだからな。ってゆーより、ここにいる奴等が俺の家族だからな」 「家族って……皆さんと名字違いませんか?」 大きく口を開けたままの和泉がそのままの格好で一呼吸置き、突然大きな声を上げて笑った。 「何なんですかー!?」 「いやいや……ククッ、そのままの意味でとるなよ。案外馬鹿だな……アッハッハッ」 堪えきれず、爆笑する和泉は腹を抱えて笑っている。 その様子が面白くない真雪は、一人むすっとしていた。 「あは……はぁはぁ、あー腹がいてぇ。あのな、俺孤児なんだ。13の頃榊に拾われたんだ」 |