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愛しき殺し屋
凛ママ1


榊との話が終わり、自室に戻った真雪は色々と考えを巡らせていた。

いつも周囲に気遣い、真雪を含め皆の事を考えてる榊。
住人観察などと生意気な口を叩いてしまった事。

知り合ってまだそれほどの月日を過ごしていない真雪に、皆を知ることはそう簡単に出来る事ではないのではないだろうか。
榊のように年齢や人生経験を積んでいるわけではなく、まして自分と同じくらいの年の和泉達ですら真雪よりも明らかに人生経験は豊富に見える。
特殊な稼業をしているのであれば、それは必然的について回るものなのかもしれない。

しかしそれでも何の努力もなしに、皆を知り得る事は出来ないだろうと自分の気持ちを前向きに考え大きく息を吸い込んだ。


昼食後それぞれが自室に戻った中、凛はキッチンの片付けをしていた。
真雪は凛の行動を見るべく、ペッタリと張り付いていた。


「……真雪、そんなに見ていても何も変わらないぞ」

「凛さんって炊事してる時でも、男らしさがあるなぁと思いまして」

「……男に向かってそれは無いだろう」


真雪は一体自分の何を見ているのか全くわからず、軽くうろたえる。
掛けられた言葉にどうして良いかわからないまま食器を片付け、エプロンを外した凛はキッチンを出た。


「凛さん、次は何をするんですか?」

「裏庭に……行くか?……って、ついて来るんだったな」


何も言わずとも後ろをついてくる真雪を刷り込みをされたひな鳥のようだと思ってしまい、凛は気付かれないように一人小さく笑っていた。


裏庭に行くと凛はガーデニング用の小さなボックスから、ガーデニング用のハサミやバケツを持ってきた。
春の暖かな日差しの中、柔らかな彩りの小さな花が咲き乱れている。

真雪は腕を伸ばし、穏やかな空気を吸い込み身体を反転させ凛に顔を向ける。


「これから何をするんですか?」

「少し剪定をしようかと思ってな」

「……凛さんって男の人にしておくの勿体無いですね。まるでママみたい」


真雪に悪びれなく微笑まれて、凛は言葉を失っていた。

悪意が無いのが見て取れるから、余計に何も言えないでいたのだ。
しばし顔を見合わせていた二人だが、真雪は相変わらず笑みを湛えている。


「真雪……ママはないだろう、ママは……」


眩暈を覚えた凛は肩を落としながらもハサミを動かし始めた。


「私のママもお料理が好きで、お花も大好きで。身体の調子が良い時はいつも色々な事を教えてもらっていました。いつかお嫁に行ったときにお料理くらい出来ないと困るわよって……。子供が生まれたら一緒に花を見たり育てたりして、優しい子に育てなさいよって……」


母の話をしていた真雪は亡き母を思い、蘇る母の言葉を瞳一杯に涙を浮かべながら語る。


「……真雪を思う優しい母親だったんだな」


真雪の異変に気付いた凛はハサミとバケツをボックスの上に置き、真雪の頭にそっと触れた。
僅かに保たれた笑顔が余計に悲しみを助長させて見え、凛の胸まで締め付けられる。


「はい、とても優しいママでした」

「真雪はそんな優しい母親から、そうやって沢山の思い出を貰ったんだな」

「はい……はい……」


瞳に湛えられていた涙が流れ、俯く真雪は言葉を詰まらせながら頷く。

      
「今くらいはママになってやるか」

「……え?」


真雪の頭に置いていた手を後頭部に回し、胸に引き寄せる。


「凛……さん」

「母親と思って泣いても良い。ただし、今だけだ。泣くだけ泣いたら笑え。また皆が心配するだろ?」

「凛さんみたいに、こんな大きい人じゃないんですよ?ママは私と同じくらいの身長でした」


凛の腕の中で涙を零しながら健気に笑う真雪に少し照れながら、これならどうだとばかりに真雪の両脇に手を入れ、抱っこしたまま高さのある石段に立たせる。


「ほら、これなら俺と身長の差なんてない」


真雪を凛の腕が優しく包む。
母の甘い香りとは違う、男の香りが真雪の鼻腔をくすぐる。

凛の優しさに甘え真雪も凛の背中に腕を回し、涙が枯れるまでしばらく泣いていた。





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あきゅろす。
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