夜の帳が下りた窓をベッドの上から眺めていると、ドアをノックする音が静かな部屋に響いた。
「真雪、入るぞ」
「凛さん」
スープと林檎のコンポートをトレイに乗せて、凜は真雪に近づいた。
無理に作られた真雪の笑顔に凛は痛々しさを感じながら、それをベッドのサイドテーブルに静かに置いた。
「食欲なくても、これくらいは食べれるだろ」
「あの、ありがとうございます。それに……今日はごめんなさい」
真雪が伏せ目がちに呟くと、凛はため息をつきベッドに腰をかける。
「そんな事言わなくても良い。元気な顔を見せてくれるだけで十分だ。ライカまで沈んでる、だから……」
「……ごめんなさ」
「言わなくて良い。誰も迷惑だなんて思ってない、榊も言っていたんじゃないか?」
「……言われました。けど、心苦しくて。迷惑かけたのは本当の事ですし」
「もう余計な事考えないで、食うもの食って寝てろ。明日には笑って、ライカ達に会ってやれ」
普段は感情らしい感情を露にしない凛が、小さく微笑む。
それを見た真雪は少し嬉しくなり、張り詰めていた糸が緩む。
「はい。……スープ、もらっても良いですか?ホッとしたら、何だかお腹空いてきちゃいました」
「ほら、熱いから気をつけろ。デザートなら食べれると思って作ったんだ、コンポートも食べるか?」
「凛さん……お菓子も作れるんですか?」
凛からカップに入ったスープを両手で受け取る。
少し冷えた手にそれはとても温かく、どこか優しさが感じられた。
「だから、料理は好きだと言っただろ」
「凛さんって可愛いですね」
急な真雪の笑顔と、台詞に身体を揺らし動揺を隠せないでいる。
「か……可愛い?そんな事言われたの初めてだ。ったく、お前には調子を狂わせられるな」
初めは呆気にとられていた凛は、髪を掻き上げながら真雪に向けていた視線を逸らした。
「今度お料理のお手伝いさせて下さい。私も作るの結構好きなんです。凛さんほどの腕前ではないから、お邪魔かもしれませんが」
「そんなことはない、好きな事をやれば良い。誰にも遠慮はいらない。……なら今度一緒に作るか」
「はい、是非お願いします」
頭を下げ微笑んだ真雪を見て凛は安堵する。
「もう大丈夫だな、食ったら寝ておけ」
いつもの真雪に戻った事を目にする事が出来、凛は腰を上げ部屋を後にする。
「はい、おやすみなさい」
閉じるドアに向かって真雪は呟き、飲み終えたスープに満足しカップを置いた。
コンポートの入った小さな皿を持ち一口食べれば、シナモンが香る甘さが疲れた真雪の身体を癒す。
「美味しい……」
用意された食べ物を全て食し、真雪は皆の優しさに包まれて安らかな眠りにつけた。