声を押し殺し泣いているところに、ドアがノックされた。
「真雪、入って良いですか?」
「……はい」
真雪は急ぎ服の袖口で涙を拭い返事をすると、その表情を見られたくない真雪は枕に顔を隠した。
部屋に入ってその真雪の姿を見るなり、榊は顔をしかめた。
「泣いていたんですか?」
ベッドに横たわり枕に顔を埋めている真雪の側に腰をかけ、スプリングを軋ませる。
無言で頭を横に振る真雪の頭にソッと触れ、もう大丈夫と榊は繰り返し呟いた。
「……私、皆に、迷惑を……ごめんなさい」
「そんな事気にしてたんですか?迷惑だなんて誰も思っていませんよ、心配はしましたけどね。それにもう済んだことです。これから心配かけないようにしてもらえれば、それで良いんですよ」
「……はい、本当にごめんなさい」
榊は小さく息を吐き、真雪の頭に置いてた手を戻す。
「私、あの時、尊さんにお腹殴られて。尊さんは私を、家に連れ戻そうとしていたんじゃないんですか?」
「私達が行かなければ連れ戻されていたでしょうね。間に合って良かったですよ」
その時の恐怖が蘇ったのか、身体を震わせ喉を詰まらせて真雪が泣く。
心の底から帰りたくないあの家に、連れ戻されようとしたかと思うと普通ではいられないでいた。
「……ふっ、っく……」
尊の家で自分を殺していた真雪にとって、久しぶりに感じられた安息の地であるこの場所。
慣れてしまった温かみに、自分はなんて弱くなってしまったのかと嬉しくも哀しくも思えた。
「今日はゆっくり休みなさい、……夕食食べられますか?」
「……いいです、ごめんなさい」
「良いんですよ、気にしないで。じゃあ凛に言って、温かいスープでも作ってもらいましょう」
震えが収まり、様子が落ち着いたのを見計らうと真雪の頭を一撫でし、後ろ髪引かれる思いを抱えたまま榊は部屋を後にした。