自分が今いる場所がどこなのかわからない真雪は、とにかく走った。 細い路地を抜け、大通りを目指しひたすら走った。 交通量の多い通りに出るとタクシーを捕まえ、近くの駅まで向かえば見覚えのある道だと思い出す。 携帯を握り締め、真雪は叔父の自宅の番号を押す。 しかしなかなか通話ボタンを押す事が出来ず、唇を噛み締めた。 二人きりで会わなければ大丈夫、怖い事は何もない。 どこか一歩前に踏み出せない自分に言い聞かせ、真雪は通話ボタンを押した。 数回のコール音の後、使用人の一人が電話口に立ち尊は在宅だと告げ、しばしの保留音が流れた。 大きく響く心臓の音に飲み込まれてしまいそうなほど、真雪の緊張は高まる。 ゆっくりと流れる車窓からの風景に目をやり心を落ち着けようとするが、耳に流れ込んでくる保留音がいつ途切れるかわからない今が怖くて堪らなかった。 保留音が途切れた時には、電話の向こうに尊がいる。 そう思えば自然と耳に意識が集中してしまう。 尊から話を聞いたところで、真雪の煩悶が癒える事が出来るのかどうかはまだわからない。 しかし聞かないことには今の現状からは前に進めないと、膝の上で手を強く握った。 不意に途切れた保留音。 聞きたくない耳障りな声が、一瞬の間を置いて耳元で聞こえてきた。 「真雪?今どこ、迎えに行くよ。帰ってきたかったんだろう?」 「……違います!私は帰りたくなんかありません!ただ……尊さんに話があって、直接会って話しを」 久しぶりに聞いた声により、尊にされた事が鮮明に蘇り冷静でいられなくなる。 声を荒げる真雪に少々驚いた尊は、語尾が小さくなっていった真雪の声を聞き薄く笑みを漏らす。 「ふぅん、話ね。じゃあこっちまでおいでよ、会ってあげるから」 「……それは嫌です。どこか外で待ち合わせさせて下さい。……駅前のプリンスホテルのラウンジに一人で来てください、待っています」 来るか来ないかは賭けだったが少しでも話が聞ければと思い、尊の返事を待たず通話を切った。 極度の緊張からなのか、握り締めていた真雪の掌にはびっしょりと汗が掻いてあった。 タクシーに行き先を変更させ、目的地へと向かう。 平日の昼間にも関わらずプリンスホテルは人通りが多く、静かな音楽が流れるラウンジに足を進めた。 腰を下ろしアイスティーを注文すると、真雪は強張る身体から力を抜き目を閉じた。 何をどう話ししていいかわからず、聞きたいことを順序よく頭の中でシュミレートする。 短い時間ではあったが長い間考えていたように錯覚するほど、疲労を感じた真雪は目を開けるとアイスティーが運ばれていた。 からからに渇いていた喉に芳醇な紅茶の味が広がり、少し落ち着くことが出来る。 一息つき、大きく息を吸う。 「真雪」 突然後ろから声をかけられ恐る恐る振り返ると、そこにはきっちりとしたスーツ姿の尊が口元を緩め微笑んで立っていた。 |