「二十九になっても結婚しなかったの、わかる?」
尊の容姿はスラリとした長身で、武術を嗜む(たしなむ)彼の身体は引き締まっている。
「……知りません」
切れ長の瞳は多くの女性を魅了するものだが、真雪にとってはその瞳が恐怖の対象でしかない。そんな尊の結婚の事など、知ろうとも知りたいとも思わなかった。
「俺は真雪を待っていたんだ、俺と結婚しよ?」
「……何を」
その台詞に驚き顔を急に上げると、尊の顔が近づいていた。
取られた片腕は壁に押し付けられ、逃げる事が出来ない。
「やぁ!」
腕を掴まれていない手で尊の胸を突き飛ばそうとするが、微動だにしない。
「キスくらい良いだろ、俺これでも我慢してたんだよ?」
「嫌です!私はしたくない!やめてっ」
尊から脱出しようと試みるが、暴れる真雪の両手を掴み頭の上で固定し、顎を押さえ無理やり唇を重ねた。
「――ッ!んんっ、やっ」
「どうして俺の言う事がわからないの、こんなに真雪の事愛しているのに……」
押し付けられた歪んだ情愛に慄いていると、両手を掴まれたままベッドに連れて行かれ乱暴に放られた。
身体が震えて逃げる事も叶わない真雪は、涙で滲む目で見ることしか出来なかった。
「どうしたら俺の気持ちわかる?」
「嫌!やめて、尊さんやめて!」
強引に服を脱がし、その服で手首を縛り上げベッドの頭元にある柵に括り付けた。
「……た……尊さん、やめ……やめて、お願い」
「本当は、ここまでしたくなかったんだけど」
揺れるスプリングに身体を預ける真雪は、薄く笑う尊を見上げた。
どこか含んだ笑みの尊がこれから何をするのか。
尊から伸びてくる手に悪夢のような想像を掻き立てられ、真雪は絶句してしまった。