――その日、真雪の叔父夫婦は提携会社のパーティがあった。 いつも公のイベントには尊も一緒に行っていたのだが、その日に限っては同行しなかった。 「叔父さん、叔母さんいってらっしゃい。お帰りは、何時ぐらいですか?」 「あぁ、今日は早く帰ってくる。先に寝てろ、家から一歩も出るんじゃないぞ。わかったな」 「あの……尊さんは行かないのですか?」 叔父の忠は厭わしそうに真雪を眺め、眉間に深いシワを寄せながらコートを羽織った。 「尊は用事があるから今日は同行しない。それにお前はそんな事を気にしなくて良い」 「あなた、遅れるわ。行きましょう」 「……はい、いってらっしゃい」 叔母の皐月は真雪を一瞥すると、きつい香水の匂いを振りまきながら家を後にした。 真雪に対する態度は昔から酷いものではあったが、ここに来てからというもの、それが益々あからさまになっていた。 そんな仕打ちにも慣れそうにもなく、真雪はいつものように宛がわれた自室へと戻った。 忠は真雪を家から出そうとはしなかった。 それも庭にすら出してもらえず、忠の家は真雪にとって牢獄同然だった。 部屋から出るのも好ましく思っていないらしく、使用人達の監視の下、一人で息が出来るのは自分の部屋しかなかった。 引き取られる前にこっそり忍ばせておいた僅かな現金も、敷地内から一歩も出る事が叶わない現実の前に、それはあってもなくても同じだった。 そして家の中が辛いのは何も叔父夫婦だけが理由ではない。 真雪は尊が昔から苦手だった。 単に男に不慣れだからとか言うのではなく、近くにいるだけで寒気のようなものを尊から感じていたから。 この家に来てからというもの、真雪が視線を感じると必ず尊が纏わりつくような視線を向けていた。 真雪は得体の知れない恐怖を抱き、出来るだけ二人きりにならないように注意を払っていた。 尊が一人残ったとしても、使用人がいるから大丈夫だと高を括っていた。 部屋に閉じこもってしまえば尊に会うこともないだろうと簡単に考え、普通に部屋で過ごそうと思っていた。 これから始まる惨劇に、真雪の心と身体が粉々に壊されるとも知らずに。 |