和泉の部屋の隣には小さな書庫があり、それを隔てて凛の部屋がある。 「凛居るー?入るよ〜」 ノックと同時に入るライカに戸惑いつつ、こっそりドアから部屋を覗く真雪。 「今仕事中なんだが……何か用か?」 凛はノートパソコンを閉じ、眼鏡を外し扉に顔を向けた。 「今ね、真雪ちゃんに部屋の案内していたのー、ここが凛の部屋だよ」 「お仕事中にごめんなさい、凛さん」 真雪は申し訳なさそうに頭を下げた。 「いっつもパソコンと睨めっこで、頭おかしくならねぇの?」 真雪を除く二人は、勝手知ったるとばかりに部屋に入っていく。 そして開口一番に和泉が言った言葉に、凛は呆れたようにため息をついた。 「仕方ないだろ、仕事だ。まぁ……休憩にするか。真雪、そんなところに突っ立ってないで、ここに座れ」 「あ、はい。お邪魔します」 凛の部屋は黒を基調にしたシンプルな部屋。 ソファやテーブルや机が、シックな黒で統一されている。 ライカや和泉の部屋になかったミニキッチンがあるくらいで、同じような家具が揃っていた。 黒いテーブルには一輪の薔薇が生けてある。 「凛さんの部屋にはお花が飾ってあるんですね、綺麗」 真雪は指先で薔薇を突っつくと、頷くように花が揺れた。 「中庭の手入れも凛がやってんだぜ」 ミニキッチンに立つ凛はお湯が沸いたのを見計らうとティーポットに茶葉を入れ、お湯を注いだ。 似合わねーよなと、笑う和泉から凛に目線を移すと、刺すような視線で和泉の背中を睨んでいる。 ハラハラしながら二人の様子を見ていると、ライカが呑気に笑い声を上げた。 「ホント仲良しだよねー、和泉と凛は。あはは」 笑い事じゃないのではと思う真雪は一人冷や汗をかきながら、二人の様子を傍観していた。 「何か入用な物はないか?こちらで用意しておくが」 「あ、はい。もう十分すぎるぐらい良くしてもらって……大丈夫です!」 不意に凛からの親切な言葉に驚き、手を振って応えた。 「そうか、何かあったらいつでも言え」 ティーセット運び、それぞれのカップに紅茶を注ぐ。 男らしい節のある指がソーサーを持つと、静かにみんなの前に差し出した。 辺りには深みのある紅茶の香りが立ち込め、真雪の心を落ち着かせてくれる。 「ありがとうございます」 真雪の言葉を聞き、凛は口の端を僅かに上げる。 そして黒く長い前髪を揺らしソファに腰を深く下ろすと、ゆったりとした動作でカップを持ち静かに口をつけた。 どこか気品溢れるような紅茶を飲む姿に、真雪は見惚れてしまっていた。 |