久々に和泉の仕事を間近で確認したくなり、同行した。
相変わらず、仕事を楽しんでる様子の和泉。
それは油断に繋がり命取りになるから、止めなさいと言ってるのに。
小さくため息をつくと、後ろから一人の気配を感じた。
一人……、同業ではないようですね、気配がまるで素人。
そんな事を考えていたら、和泉の仕事が仕上げにかかっていて、ターゲットは呆気なく絶命した。
「お疲れ和泉、後で説教です。もう少し真剣にやってもらいたかったですね。遊びが過ぎますよ?私は用事が出来たので、先に帰っていてください」
「えぇ!!……つい楽しんで殺ってしまっ。……はぁ説教か」
肩を落とす和泉は素早く仕事場から離れ、暗闇にまぎれる背を見やった。
「今度はこっちか、さてどうしたものか」
私は物音を立てず気配を消し、こちらを見ていた人物の後ろに立つ。
月が雲によって隠され、闇に私の姿を紛れさせるのに好都合だった。
まだ十代くらいの女の子。
服装などの身なりを見れば、どこかのご令嬢と言ったいでたち。
しかも雨の中ずっといたのであろう、全身ずぶ濡れになっている。
雲の切れ間から零れる月の光が彼女を映し出し、黒く長い髪や服が、身体に張り付いているのがわかる。
「お嬢さんどうかしました?雨降る夜更けに傘も差さずに、……ずぶ濡れですよ」
「あ……」
私の声に振り向いた彼女の生気のない澱んだ瞳が、ぼんやりとした月明かりに照らされた。
今は春とはいえ、まだ四月。
長時間雨に晒されていたんだろう、白い肌が青白く見える。
「見ていたんですか?」
「……はい」
いくら雨の中とは言え、見られてるのを気づかなかったのは私の失態。
「困りましたね」
「私も殺して」
自嘲めいた笑みを漏らせば、彼女は妙な事を口走った。
命乞いや媚を売るのはわかるが、死にたがるとは。
この娘は一体……。
「どうしてですか?」
「この世に……未練なんてないんです、私の居場所なんて……」
彼女の言葉の語尾が小さくなったかと思うとズルリと身を崩し、私は咄嗟に腕を伸ばし彼女の身体を支えた。
「……本当に困りましたね」
なぜだか放っておけない気になった。
いざとなったら、暗示をかけて記憶を閉じてしまえば良い。
取り合えず、私の手元に置いておこう。
……単なる気まぐれだった。