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愛しき殺し屋
月光

そんな事を考えながら冷たい春霖(しゅんりん)の中、傘も差さずフラフラ歩いていると、暗闇の中に人の気配を感じた。
ずっと闇の中を歩いていた真雪の目が慣れていたためか、すぐにその気配の元を察知する事が出来た。

真雪が建物の影から眺めていると雨も止み、雲の切れ間から月の光が細く濡れた大地に降り注いだ。

点在する水溜りに光が反射し、冷たい光が煌いている。

水溜りに目を奪われていると、鈍く光るナイフを持った少年が月明かりに照らされ、空中を舞っているように見えた。
少年はキャップを被っていて顔までは見えないが、口の端が少し上がっていて、笑っているように思わせた。

そしてすぐ側には中年で体付きのガッシリした男が、覚束ない足取りでフラフラしている。
少年は手に持っていたナイフを口に咥え、中年の男の頭に手をついたかと思うと馬飛びの要領で軽々と飛び越した。

虚を突かれた中年の男の背後に回った少年に、拳を振り上げ身体を振り向かせた一瞬。

小さな呻きをあげ、ガッシリした男はその身からは考えられないようなほど脆く膝から崩れ落ち、その場に蹲り動かなくなっていた。


ナイフを持っていた少年は動かなくなった中年の男を蹴り上げ、蹲っていた身体を仰向けに転がした。

蹴られたにも関わらず、微動だにしない中年の男。
彼は死んだのだろうか。
漠然と死を身近に感じた真雪だが、恐怖感は一切湧いてはこなかった。

初めて人が殺される場面に出くわした真雪は、どうせなら自分もついでに殺してくれないかなどと、不謹慎な考えを巡らせていた。

それほどに今の真雪は、死に対して憧れにも似た強い感情を抱いていた。

この今を変えるにはそれしか考えつかないから。
不幸の連鎖は死して超えるものはない。

自分の中の決め付けが、それ以上の考えを導き出そうとしないでいた。


争っていた二人の側には雨が上がったにも関わらず、傘を差したまま傍観しているスーツ姿の男。

暗闇の中で動く黒い傘と黒いスーツの男が、少年に近寄った。
真雪には聞き取れないが何かを喋っているようで、ボソボソと男達の声が低く響く。


静かな闇のせいなのか、それとも非日常の不思議な光景のせいなのか。
妙に落ち着いている真雪は髪から流れ落ちる雫を頬に感じ、今見ていた現状は夢ではないと考えていた。

雨上がりの澄んだ冷たい空気が、真雪の意識だけをよりハッキリとさせていた。




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