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愛しき殺し屋
春雨
雨で濡れた道を、頼りない足取りでいる女が一人。

濡れた身体に更に降りそそぐ雨が、彼女の体温を奪う。
水分を含んだ長いスカートは足に纏わりつくほどで、背中まで伸びた黒髪は頬に張り付き、彼女の白い肌を病的に際立たせていた。

過去の幸せだった日々を回想し、足元を泥だらけにしながら当てもなくさ迷い歩く。

彼女の名前は御堂真雪。

両親は一代で資産と言えるものを築き上げ、何不自由なく平穏な毎日を過ごしていた。しかし今の真雪からは、その過去の生活を窺い知る事は出来ない。

しとしとと降る春の冷たい雨の中、両親が生きていた頃の記憶が走馬灯のように頭の中を巡る。


家族を大事にしていた父親、病弱だったが家庭的で優しい母親。
両親が生きていた頃の本当に幸せだった自分が、記憶の中で微笑んでいる光景。

それを打ち消す映像は、両親の死を告げる警察からの電話。
慌しく身内と会社関係者だけで執り行われた、両親の葬儀。

葬儀場でただの飾り物と化した真雪は両親の死を受け入れられなく、夢を見ているような思いで遺影の両親を眺めていた。

両親の死を受け入れられないのは、“自殺”と言う不可解な死に方だったから。

真雪は有り得ない両親の死に方に、これは嘘なのだと自分に言い聞かせる事で泣く事もせず、両親のいない家で毎日を過ごしていた。

真雪だけが時間に取り残されたように、両親の死後は毎日のようにたくさんの会社関係者、親族が出入りしていた。

そこで何が行われていたのか知りもしない真雪は、父親の唯一の兄弟で副社長の叔父に言われるがまま、書類にサインや判を押していた。

無気力な真雪は煩わしい事はしたくないと、感情の持たない人形のようにその日その日を過ごしていた。

それが後に後悔するような事になるとも知らずに――。


サインや判を押した書類は、両親の死後に真雪に渡されるはずだった会社の権利書などの重要書類。
父親が経営する会社の弁護士に手を回し、真雪の叔父は僅かばかりの資産を乗っ取るために、半分意識のない真雪に何も説明せずサインをさせたのだ。

それを真雪が気付いた頃には時遅く、そしてパフォーマンスとして両親を失った真雪の面倒をみる心優しき叔父を演じるために、真雪を引き取った。
それから引き取ると同時に真雪の住んでいた家を何の相談も無しに売り払い、両親との思い出は頭の中にある残像のような記憶だけとなってしまった。

僅かに残された生きる希望に、追い討ちをかける様々な出来事。
深い悲しみから脱出出来なかった真雪は、肉体的にも精神的にもボロボロになってしまった。

いつ死んでもいい。
両親の元へ行けると思ったら、死など怖いものではなく。
昔の幸せだった頃に戻れる、そんな考えばかりしか頭に浮かばなかった。




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