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愛しき殺し屋
和泉と風邪4



三十分後、真雪はおじやをトレイに乗せて再び和泉の部屋に入る。


寝てるかもしれないと思い、小さくノックをしてからゆっくりとドアを開けた。


静かな寝息をたてる音が聞こえ、トレイをテーブルに置いてからベッドに近寄る。

顔の半分を布団で隠し、眠る和泉がいて。

前髪の隙間から見える冷却シートが何とも不釣り合いで、不謹慎ながらも真雪は思わず微笑んだ。


真雪の気配に気付いた和泉は、目を薄く開いてぼんやりとしている。


「俺……寝てた?」

「ごめんなさい、起こしちゃいましたね」

「別に……、俺眠り浅いし。気配感じたら勝手に目が覚める」


ウーンと唸りながら大きく伸びをし、和泉は身体を起した。


「何か、良い匂いする」

「あ、おじや作りました。食べます?」

「……食う」


ゴシゴシと目を擦り、和泉はソファーへと足を運んだ。


テーブルには小さな土鍋が置いてあり、細い湯気が立ち上ぼる。

真雪が蓋を取ると、ふわりと湯気が一斉に飛び出し、味噌の香ばしい匂いが辺りに充満する。


「あ、肉団子!」

「お肉食べたいって言ってたんで、鶏肉のつくねも作りました。おじや、味噌味なんですけど、平気ですか?」

「ヘーキ、ヘーキ。真雪俺腹減った、早く食わせて」


急かされる真雪は、慌てて茶碗へおじやをよそい、つくねを二つ乗せた。


いまかいまかと待ち切れない様子の和泉に、茶碗を手渡す。


「熱いから、気をつけてくださいね」

「わかってるって、いただきー」


レンゲで一匙掬い、フゥフゥと冷まし口へ運ぶ。


「ぅ、うめぇ。何か身体に染みわたるー。……肉もうめぇー」


美味い美味いと連呼する和泉は、ペロリとおじやをたいらげてしまった。


「ごち。真雪サンキュ、すんげぇ美味かった」

「良かったです。じゃあお薬飲んで、また寝てくださいね」


和泉の前に水と薬を差し出し、食べた食器をトレイへと戻す。


素直に渡された薬を口に含み、水を一飲みした。


「よっしゃ、薬も飲んだ!」

「和泉くん、何でお医者さんに行かないんですか?」

「……面倒だから。病院行くと、待ってる間にもっと具合悪くなりそうだろ?」


しかめた顔をする和泉は立ち上がり、ベッドに身体を投げる。


「俺はここで寝てた方が良いし、その方が早く良くなる」

「けど、眠りが浅いんですよね。身体の疲れとれますか?」


真雪はトレイを持ち、片付けようとキッチンに行こうとすると。


「……取れない。真雪、ちょっと来て」

「片付けてくるんで、少し待っててください」

「良いから、今。……来て」


いつもの和泉らしくない物静かな言い方に、病は人の気を弱くさせるものだと思い、トレイをテーブルに置き和泉に近付いた。






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