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願い叶う時
対峙する時1


「おい狐!芳乃さんを見つけたぞ!」
 

叫ぶ伊織に朱旺は僅かに顔を横にし、芳乃の姿を視界に捉えた。

蒼白い顔をし血の気の失せた芳乃が伊織に抱かれ、今にも壊れそうなほど脆く目に映り、目を見開いた。
気付いた雪代は咄嗟に行動を起こし、伊織の元へ駆け寄った。


「芳乃様!」

「致命傷ではないにしろ、出血が多そうだ。手当てを!」


伊織はその場に芳乃を下ろすと、雪代に傷ついたその身を委ねた。


「雪代さ…ん……、私…」

「芳乃様、もう大丈夫です。しっかりしてくださいませ」


声を発した芳乃に少々の安堵を覚えた朱旺は、常盤に向き直り凄みのある睨みをきかせた。
鋭い視線を向けられている常盤は変わらず薄ら笑いを浮かべていて、口元から覗く牙を光らせた。


「あの女のとこに行かなくていーのかよ」

「貴様……、何のつもりで芳乃に手を出した。わざとらしく痕跡を残してまで俺を呼び寄せた理由を言え」

「お前の大事なモノを壊された時の歪む顔が見たかったからだ。お前が俺から瀬李姫を奪ったんだ、これくらいは当然だろう?いや、まだ甘いな。瀬李姫はお前に殺されたんだからな……」


徐々に低くなる声に常盤の苛立ちが増すのがわかり、辺りの空気に熱気が孕む。


「お前は瀬李姫を狂わせ、そして殺した。恨まれて当たり前だよな、瀬李姫よりあんな屑みたいな人間を守りやがって。何百、何千の人間の命と、瀬李姫の命。天秤にかけるような事するんじゃねぇ、仮にも惚れていた女だろ?」


常盤の声に黒さを秘めた炎が呼応し、常盤の身体を取り囲む。
熱気が渦を巻き、喉が焼け付くほどの熱さに朱旺は目を細めた。


「狐!無事か!?」


伊織は鞘を翳しながら熱気を防ぎ、朱旺の元へと近寄った。

煽る熱風が銀糸を揺らすが、それでも微動だにせず怒りを露にした朱旺の横顔。
抑え切れない激情に、朱旺の身体からは仄青い炎が吹き上げた。


「退治屋は下がれ」

「煩い!これは俺の仕事でもある。下がっているのはお前だ!人間に禍を成す者を葬るのは……俺の仕事だ」


朱旺に凄まれても怯む事のない伊織は刀を構え、常盤から溢れる熱気を退けた。


「……勝手にしろ」

「勝手にさせてもらうさ」


常盤は怒れる二人を前にしてても、尚も挑戦的な眼差しを止めず赤黒い炎を身に纏っていた。






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あきゅろす。
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