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願い叶う時
来客


「夜中に来る事はないだろう!普通の人間は寝ている時間だ!」

「退治屋の都合など知った事ではない」

「俺はやっと怪我が治ったばかりなんだ!……それも俺を半殺しの目に合わせた、あの雪代とか言う奴が持ってきた妙な薬を飲まされて無理矢理完治させられたんだ!」

「雪代の霊薬は効く。殺されかけたのは芳乃を傷つけた報い、薬を飲まされたのは芳乃の温情だと思え」

「しかしあれは不可抗力!咄嗟の事で力を緩めて急所を外すのが精一杯で」


真夜中に咲き乱れる花々を押し退け、二人の男が言い争いをしながら屋敷へと向かう。
退治屋こと橘伊織と、屋敷の主の朱旺。


「お前の顔を芳乃に見せたら帰してやる。それまではここに留まる事を許してやるから、少しは黙っていろ」

「芳乃さんに?」

「芳乃が心配している。お前が無事なのかどうか」

「強引に無事にさせただけじゃないか!一旦は死にかけたんだ、お前等のやった事を洗いざらい芳乃さんに喋っても良いのか!?」

「そんな事をやってみろ、次は俺が直接手を下してやる。ただし、霊薬なんぞ二度と与えぬ」


伊織は攻撃をしかけてはいたものの、朱旺は一切手を出す事がなかった。
朱旺の持てる力を出して戦ったのであれば、雪代の手にかけられるより前に、とっくに命が尽きていたのではないのだろうかと、悔しさで言葉を詰まらせる。
風に靡く銀糸の隙間から朱旺の鋭い眼光が垣間見え、威圧的な朱旺に最早歯向かう気力は削げてしまった。


「……俺に会わせるためって…、夜中に芳乃さんを起こすつもりなのか?」

「明日、芳乃が起きたら会わせる」

「……芳乃さんが起きるまで俺は何をしていれば良いんだ…」

「それくらい己の頭で考えろ」


勝手な事ばかり言い放つ朱旺に殺意が芽生えそうになるが、自分で傷を負わせてしまった芳乃が気がかりである事は事実。
悔しさで息を巻くが、伊織は朱旺から顔を背けて苛立つ気持ちを押さえた。


「……」


玉砂利を踏みしめて歩いていた朱旺の足が止まり、怪訝な顔で辺りを見回した。


「……どうしたんだ」

「……いない…」


朱旺は意識を集中させ険しい表情のまま、身体を反転させて再び見回す。


「だから一体どうしたんだ!」


何も言葉を発しない朱旺に痺れを切らした伊織は声を荒げ、朱旺に近寄った。


「……俺の結界内に…、芳乃の気配が……ない…」




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あきゅろす。
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