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願い叶う時
疑い2



「せっかくの花が台無しになったじゃない!どうして急にあんな事するの!?いつまでも大人しく朱旺の言う事を聞かないんだからね…ちょっと、話聞いてるの!?」


怒りをありのままにぶつける芳乃は、表情を変えない朱旺に食ってかかる。
しかし芳乃の話を聞いているのか、聞いていないのか全くわからないその様子に芳乃は唇を噛んだ。


「朱旺!話を聞いてるの!?」

「芳乃」


朱旺の襟を掴んで見上げた芳乃は、名前を呼ばれた事に対して眉間に皺を寄せるだけで返事をしない。
芳乃に向けられていなかった視線が不意に落とされ、強く睨んでいた目とぶつかった。


「な……何よ」

「お前に聞きたい事がある」


淡々とした口調の朱旺は再び芳乃の腕を引き寄せ、真剣な表情で声を発した。
朱旺のとった行動で芳乃の身体は条件反射で身を大きく跳ねさせる。


「お前、水芭蕉の池に行かなかったか?」

「水芭蕉の池……?」


やっと話を誤魔化せたと安堵する芳乃は首を傾げ、わからないといった様子を見せた。


「行かないのならそれで良い。もし何かあったら俺に言え、すぐにだ」

「何かって何よ」

「何でも良い。とにかく、側に俺がいないなら叫べ。必ず行く」


見下ろしてくる朱旺に気圧され、得体のしれない緊張感が伝わる。
これから自分の身に何かあると言わんばかりの朱旺の態度に不満を言いたかったが、無闇に朱旺を苛立たせてはまた真紅の瞳を持つ男の話に戻ってはまずいと思い口を噤んで頷いた。


「……ね、朱旺。私も聞きたい事があるんだけど。伊織さん、あれからどうなったの?」

「さぁな、俺は知らん」


簡単にされた返事に芳乃の顔が引きつり、朱旺の袂を握って強く引っ張った。
勢いに任せて出た行動に驚きつつも、芳乃はマジマジと朱旺の顔を窺う。


「……まさか…、死んだとか…ないよね」

「それはない」

「本当に?無事なんだよね?」

「……本当だ。一旦屋敷に戻る、行くぞ」


呆れたようにため息を吐き出し、袂を掴む芳乃の手を取ると立ち止まっていた身体を朱旺に寄らせた。
煽られる不安に絶句する芳乃に、朱旺もまた黙ったまま歩き始めた。

苔むした石畳が真っ直ぐ屋敷へと道を連ねる。
その閑散とした風景を彩る、色とりどりの花木。

舞い散る赤い紅葉がひとひら、芳乃の目の前を落ちていった。


「伊織さんは私を助けようとしてただけなのに……、どうして」

「退治屋がそんなに心配か」


芳乃の呟きに、朱旺は立ち止まって振り向いた。
感情を読み取る事の出来ない朱旺の表情に、芳乃は口ごもりながら俯く。


「だって…、私の心配をしてくれたんだし。わざわざ朱旺に喧嘩を売るような事をしてまで……私を助けようと」

「俺も芳乃が心配だからこそ、この屋敷に留めさせた」

「え……」


俯いていた顔を上げ、芳乃は朱旺を見つめた。
変わらず表情のない朱旺ではあったが、目が合うと少しだけ辛そうに伏せられた。


「俺は……、もう二度と失うような事はしたくない。ましてあのまま芳乃のいる世界で無事でいるとは思えないからお前を俺の手元に置いた。それが我侭だとしても、無理にでも傍らに置いておきたかった」

「意味が……、意味がよくわからないよ」

「いずれわかる時が来る……」


そう言うと、朱旺は芳乃を見つめ返した。
どこか胸を締め付けられるような寂しげな表情を垣間見せる朱旺に、芳乃の心模様は複雑な色を見せた。


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あきゅろす。
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