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願い叶う時
退治屋1


「お前だな、最近こそこそと屋敷内を覗き見ていたのは。」


そよぐ風が静まり、朱旺の草を踏む音が近付く。

伊織は手にしていた鞘を持ち、柄を右手で強く握った。
黒く艶めいた鞘から抜き取られた刀身は真紅に染まっていて、爽やかな空を背景に禍々しい姿を現した。


「神殺しじゃ飽き足らず、ついには人間にまで・・・。そんな危険な存在をのさばらしておくわけにはいかないだろう?」


紅い切っ先を朱旺に向ける伊織は今までと違った低い声を出し牽制する。


「・・・お前何者だ?」

「俺は退治屋。古から生きる悪しき者を封じる事を生業をしている。」

「ほぅ・・、懐かしいな。まだ血は絶えていなかったのか。」

「俺の血筋を知っているのか?なら話は早い。芳乃さんは現世に連れて行く。いつまでもここに居ては芳乃さんの身体がもたない。」


伊織は横目で芳乃を一瞬見やり、すぐに朱旺へと視線を戻した。
しかしその時の朱旺は余裕の笑みを浮かべていて、伊織は怪訝な顔で睨みつけた。


「それなら無用な心配だ。俺の精を受け取っている限り、芳乃はこの地で永遠の命が約束される。」

「っ・・!?貴様、芳乃さんに何を!?」

「お前も退治屋の端くれならわかるだろう、俺の言っている意味が。」


伊織を馬鹿にしたように薄く笑う朱旺に、紅い刀身が微かに揺れる。


「・・・お前は一体・・。芳乃さんをどうするつもりだ・・・。」

「それはお前に係わり合いのない事だ。」


焦りの色を見せる伊織に対し、至極淡々と受け答える朱旺。
しかし負けじと鋭い視線をぶつける伊織は細く息を吐き出し、うろたえそうになる心を落ち着かせ冷静さを取り戻す。


「ともかく、芳乃さんはお前の手によって連れてこられた・・。これは事実だ。そんな事は人間の世界の条理に反する。」

「だから?」


伊織を挑発したいのか、朱旺は薄く笑みを湛えたまま一歩一歩近付いて来る。

しゃがみ込んだまま自分の頭上で繰り広げられる言い合いに芳乃は困惑し、一触即発の二人から目を離せないでいた。




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