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願い叶う時
不器用な男3


「もし芳乃様がお一人で庭に出て不審な輩が何かしでかしては大変だと、朱旺様は心配してあの様な物言いをしてしまったのです。」

「だったら・・・、そんな事ならちゃんと言ってくれても良いのに・・・。」


朱旺の代弁をする雪代の言葉に、芳乃は元気をなくした様に声を小さく、遠慮がちに呟く。


「朱旺様は不器用な方ですから・・、その点を芳乃様にわかってもらえたらと・・。そんなに考え込まないでください。これからずっと朱旺様と暮らすのですから、追々理解出来るのですから。笑ってくだされば、朱旺様は一番喜ばれますよ。」

「・・雪代さんは朱旺の事、悪く言わないのはどうして?あんな横暴で無愛想な奴、嫌じゃないの?」

「嫌いになった事はありません、私は朱旺様を敬愛していますから・・。」

「・・・・朱旺のどこに敬愛と言う言葉が使われているのか、私は気になるんですけど。」


益々謎を深めるような発言をする雪代に芳乃は疑いの眼差しを向ける。
そんな芳乃に対し、雪代は口元を隠し軽やかな笑い声を上げた。


「長い時お側にお使えしているからこそわかるのかもしれませんが、あの方は本当に人間を愛しています。とても大事にされているのです。」

「・・ふーん・・・。」

「これから芳乃様も朱旺様のお優しい一面が見る事があると思いますし・・。それに、私が朱旺様の良い所を言った所で、芳乃様は信用してくれないと思いますから、あとは芳乃様ご自身でお確かめください。」


芳乃は朱旺と出会ってからの事を振り返り、そのまま小さく頷いた。


その時、雪代では察知する事の出来ない感覚が辺りを包んでいた。


「対象人物はいない・・な・・・。」


目を閉じ感覚を研ぎ澄まさせた男が小さく呟く。
少年から大人の男へと変化を遂げようとしている年頃に見える男は、黒髪を風に靡かせゆっくりと目を開いた。


「俺が・・橘伊織の名にかけて、アイツを仕留める。」


深い森の奥。
伊織は大木に身体をもたれさせ、その場の空気と一体化するように気配を消しながらも、静かなる怒りを手に持つ刀に込めた。

艶やかな黒塗りの鞘から刃を抜くと禍々しい波紋が露になり、鮮血を帯びたような紅い刀身に木漏れ日を反射させた。


「この魔斬りの刀で・・、神を殺したあの狐を・・・。」





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