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願い叶う時
夢想の湯3


抱き上げられ湯船から身体が離れると、僅かにひんやりとした空気が芳乃の肌を掠める。
熱くなりすぎた身に格子の隙間から入ってくる風が今は心地好く、芳乃は息を大きく吸い込んだ。

朱旺は湯船に浸かり横柄な態度で浴槽の縁に腕をかけ、掛け流しの湯が流れる洗い場にしゃがむ芳乃の姿を見ている。


「・・・見ないでよ。」

「他に見る所がなければ、芳乃を見るしかないだろう?」


朱旺の視線を感じた芳乃は投げ出されているバスタオルを掴み、身体の前方を隠しながら横目で朱旺に訴える。
しかし芳乃の訴えなど聞く耳を持たない朱旺は、問題ないとばかりに淡々と答えた。

暫しの沈黙の後、芳乃は諦めたのか湯桶を持ち、湯船から湯を一掬いし身を屈め髪に流した。

隠れていたうなじが露になり、飛沫が湯の玉となって背中を伝って落ちる。


「・・・シャンプー・・。」


身を屈めたまま辺りを見回した芳乃は、これから使う道具がない事に気付く。
ゆっくりと浴槽の方を向けば、変わらぬ表情の朱旺と視線がぶつかった。


「ね・・シャンプーは・・。」

「そんな物はない。」

「じゃあ髪はどうやって洗うの?」


芳乃の問い掛けに、朱旺はほくそ笑んで立ち上がった。
湯を掻き分け芳乃に近付き、腕を逃げようとする身体に巻きつけ軽々と持ち上げ湯船へ引き摺り込んだ。


「ちょっと!」

「この地の湯は全てを清めてくれる。この湯に浸せばそれで十分だ。」


自分が育った世界とは違う事を知ってはいるが、さも当たり前に話す朱旺に言いたい事も言う気が起こらなくなってしまう。


「・・わかったから離して・・。」

「なぜ?」

「なぜって、恥かしいからに決まってるでしょ!?・・・もういい!朱旺が離してくれないなら出るから。」


恥かしさを押し隠し、芳乃はその場限りだとばかりに勢いよく立ち上がった。


「駄目だ。」


立ち上がったと思ったのは芳乃の気持ちばかりで、実際は朱旺の腕の力の方が早く入り、その腕に強く抱き締められていた。


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