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道化の国
釘を刺す


センリは美咲を見送ると、マリカに身体を向き直した。


「マリカ。街に出たら騎士達に護衛をお願いしてください」

「わかったわ」


まだフィールドから出したくないセンリだが、それを無理強いしたくもなく、マリカに美咲の身を委ねた。
それを知っていたマリカは何も聞かず、センリの言葉を快く了承した。


「でもそんなに心配なら、センリも来たら良いじゃない」

「そうしたいのは山々なのですが、私が警戒心丸出しでいたら美咲が気にしてしまうので。ですからマリカにお願いを……。不本意ですが」

「わかったわよ。美咲は私達がしっかり守るから安心してなさい」

「お願いします。今頼れるのはマリカしかいません」


マスカーレイドの前で繰り広げられる光景に、ガックリと肩を落として話を聞いていた。


「俺は頼りにならないのかよ」

「いざとなればマスカーレイドも信用しますから、安心してください」

「マリカお待たせ!……皆どうしたの?」


仕度の終わった美咲の前には暗い顔のマスカーレイド、呆れ顔のマリカ、そしていつも変わらぬセンリが居た。


「何でもありませんよ、美咲似合いますね。では気をつけて行って来てください」

「うん、じゃあ行って来るわね」


煌びやかな髪飾りの音をたて、マリカと美咲は切り裂かれた空間へ入って行った。


フィールドに残ったセンリは、マスカーレイドに再度釘を刺す。


「マスカーレイド、二度とあのような行為は止めてください」

「わかってるって、俺だって命惜しいもん」


いやらしそうに口元を吊り上げるマスカーレイドを睨みつけるセンリは、面白くなさそうにお茶を飲んだ。


「でも……食べたくなるような寝顔だったなぁ」


顔を少し上げ、片手を顎にかけるマスカーレイドは何かを思い出すように、楽しそうに口元を緩めた。
そんなマスカーレイドをセンリが見逃す事はなく。


「今すぐ貴方の記憶から、美咲の寝顔を消去してください」


センリの無表情で刺すような視線が、マスカーレイドに突き刺さる。


「記憶すら自由にしちゃいけないのかよ、どんだけ独占欲が強いんだか」

「貴方にも希望の光が現れれば、私の気持ちがわかりますよ。美咲が居なくなれば私は生きてはいられない」

「へぇ……、生きていられない……ねぇ。そんなに良いモンなの?」


マスカーレイドの言葉にセンリの顔が思わず綻ぶ。


「こんなに満ち足りた気持ちになるのは初めてです」


顔を緩ませ、薄っすらとした笑みのセンリは目を細める。


「触れなくとも、傍らに居るだけで心が安らぎます。美咲からはとても良い香りがして、それにあの笑顔を見ると……」

「……ふぅん」


うっとりと恍惚の表情のセンリが、瞼を閉じ甘い吐息を漏らす。
マスカーレイドは薄笑いを浮かべ、センリの様子をジッと見ている。


「触れると折れそうなくらいの、あのたおやかな身体が紅く染まり上がると、私は普通でいられなくなってしまいます」

「話を聞いてるだけで、たまらないな」

「――今言った事は忘れてください」


我に返るセンリは喋り過ぎたと、それから一言も喋ることはなかった。




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あきゅろす。
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