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道化の国
黒い影


小さな寝息をたて一人ベッドで眠る美咲に、近寄る黒い影。


「美咲」

「……ん」


まだ夢うつつの美咲の瞳は閉じられたままで。
スプリングが小さく軋み、美咲の顔に影がかかる。
部屋に燈る蝋燭の揺らめきが、その影をよりハッキリと映し出す。

影から手が伸び、額にかかる髪を優しく払う。


「んん……くすぐった、……センリ?」


影から小さく笑う声が聞こえ、美咲の耳元で違うよと囁かれる。
センリと違う声に驚き、一気に美咲の脳がまどろみの世界から帰還する。


「……マスカーレイド!?」

「やぁ美咲、おはよう」


そこには口元を緩ませるマスカーレイドがベッドに腰をかけ、美咲を上から見下ろしていた。


「どうして……此処に?」

「ん?マリカに連れて来てもらったんだ。アハ、もうバレたみたい」


廊下を駆ける音が近付き、勢いよく扉が開かれる。


「マスカーレイド、このような不躾な事をするのでしたら、出入り禁止にしますよ」


怒りを露にしたセンリが美咲に近寄りながらマスカーレイドを睨む。


「寝顔見るくらい良いじゃん。センリはケチだな」

「ケチで結構です。美咲の寝顔を見て良いのは、私だけなんです。美咲、マスカーレイドに何もされませんでしたか?」


心配そうに美咲の様子を伺うセンリに、大丈夫だと言う意味を込め、美咲は微笑んだ。


「誰かと思ってビックリしたけど、大丈夫」


センリは美咲の髪を梳き、口付けをする。
マスカーレイドに見せつけるようなキスに、美咲は恥ずかしくなりセンリの胸を押す。

センリは微笑み美咲の耳元で囁いた。


「二人きりになったら、続きをしましょうね」


センリの艶のあるテノールが頭に響き、顔が紅くなる美咲はそっぽを向いてしまう。


「お熱いのはわかったから、早くお茶にしよーよ」


呆れた声のマスカーレイドは、手をひらめかせてベッドルームから出て行った。


「美咲、マリカが来ましたよ。着替えはあちらに用意してあります。ゆっくりで良いので、着替えて来てくださいね」

「本当!?マリカが来たのね!わかった、ありがとう」


朗らかに笑う美咲を見て、センリもベッドルームを後にした。



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