「センリ、遅かったじゃん」 「シャワーを浴びて来ましたからね」 先に来ていたマスカーレイドは、カウンターで大きな氷の入ったグラスを揺らしウィスキーを飲んでいた。 「同じ物を」 センリはバーテンダーに注文をし、マスカーレイドの隣りに座った。 薄暗い店のカウンターには小さなランプが灯され、三つあるテーブルには、それぞれ蝋燭が淡い光を放っている。 センリの前にグラスが置かれると、大きな氷の上からウィスキーが静かに注がれた。 「お疲れさん」 グラスの中で氷を回していると、マスカーレイドがセンリの持つグラスと合わせた。 「マスカーレイドは毎日退屈だと思いませんか?」 「ハハッ、何だよいきなり」 「私は退屈です」 センリは氷が音をたて溶ける様子を寂しそうな瞳で眺める。 「希望の光がいるじゃん」 慰めるようにマスカーレイドはセンリの肩に手を置いた。 「いつ出逢えるかわからない、そんな光を当てにして良いのでしょうか」 「それを言ったら夢がないだろ」 呆れ口調のマスカーレイドだが、弱気なセンリがおかしくて思わず口元が緩む。 「何がおかしいのですか?」 マスカーレイドは口元を誤魔化すように、ウィスキーを運んだ。 「センリは誰かの希望の光に逢った事ある?」 「いえ、ありませんね。話では聞いた事があります。マスカーレイドはあるのですか?」 「俺も話だけだな、全く縁がないんだよな」 氷が溶け薄くなった琥珀色をマスカーレイドは舌の上にのせ味わう。 それに合わせてグラスを揺らし、センリも静かに飲んだ。 「他人の希望の光で良いから、逢ってみたいよな。どんな人なんだろ」 「話では筆舌が難しいような人だと聞きますが…。想像出来ませんね」 センリとマスカーレイド以外客の居ない店内は静かで、氷とグラスがぶつかる音だけが響く。 |