美咲が目覚めると、大きなベッドに寝かされていた事に気付く。
燭台の置かれたテーブルから、柔らかな蝋燭の光が揺らめいてる。
「こ、こは……」
幾分か香りにも慣れたのか自分を見失う様な事は無くなっていたが、まだ残る痺れるような感覚に頭を振って現状を把握しようとした。
「気がつきましたか?此処は私のフィールド……、言うなれば部屋でしょうか」
一人がけの椅子に座っていたセンリは読みかけの本を閉じ、靴音を鳴らして近づく。
「私を帰して、此処から出して……」
「まだその様な事を言っているのですか」
困り顔になるセンリは美咲がいるベッドに腰を下ろし、手を組んで蝋燭の灯に目をやった。
「まずは美咲が聞きたかったであろう事を、説明しましょうか」
背を見せていたセンリは美咲に振り返り、問い掛ける様に言うと微笑んだ。
「この国は時間の概念も年を重ねると言う概念もありません。見ませんでしたか?空の陽の光と、地上の夕闇。常に混在する時が、まさに時間と言う概念をなくしてしまっているんです。ですからわずかにある時の流れはゆっくりで、気が狂うほど長く感じられるのです」
美咲は不安な気持ちになりながらも、センリの言葉に耳を傾けた。
思えば、空の明るさと地上の暗さに違和感を感じてはいた。それが美咲の心許なさを増幅させてもいた。
「……そしてこの地に迷い込んだ貴女も例外ではありません。緩やかな時の流れに、美咲も飲み込まれています」
怖れの色を隠せない美咲は、固唾を飲んで話を聞く。
「そしてそんな私達に与えられた、たった一つの心の安らぎが希望の光……」