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道化の国
ただいま


「……美咲…、美咲……」

「……センリ」


センリの声に美咲が目を覚ますと、見慣れた天井がぼやける視界に入り込んできた。
辺りに視線を巡らせればランプの薄明かりが揺れている。

安心出来る香りに包まれながらの目覚めに、気だるさの残る身体は幾分か救われた。
本当の自分の居場所に戻って来れたのだと実感し、隣に添うセンリに笑みを見せると、軽やかな足音が足早に近寄って来た。


「美咲さん!……お帰りなさっ……、良かった……」


ベッドに駆け寄り跪いて、泣きながら笑うユリアは零れる涙を拭いながら必死に美咲に声をかけようとする。
嗚咽混じりに喋ろうとするユリアの頭を、撫でるマスカーレイドの口元は緩やかに上がった。


「戻って来れたね、良かった」

「美咲、心配したのよ?身体はどうなの、大丈夫?」


ベッドの足元に腰を下ろしていたマリカも、美咲の顔を覗き込むようにして身を乗り出してきた。


「……皆」


自分の帰りを待っていてくれた、そんな皆の気持ちを一心に受け止め、美咲の涙腺は緩んでしまう。
嬉しさや、何処か気恥ずかしい感情に胸が熱く締め付けられる。

言いたい事はたくさんあるが、涙が邪魔をして言葉に出来ない。
待っていてくれた皆に笑顔を見せて安心させたくて、一言発するだけで精一杯の美咲。


「なー、まだセンリ達の意識戻らねーのかよー……って、美咲!起きたのか!?」


何の前置きもなしに部屋に入って来たユーマは、両手に抱えていたフルーツを投げ捨て慌ててベッドに近寄った。
美咲の目の前に顔を寄せ、ユーマは驚いた表情でマジマジと見た。


「やだユーマ……、口の周りが汚いよ」


いつもと変わらない様子を見せるユーマに、思わず嬉しくなって言葉を発した美咲は涙を零しながら微笑んだ。
果汁で濡れた頬を指で拭おうと、美咲はユーマの口元へ手を伸ばす。


「戻って早々、他の男に触れるのはあまり嬉しくありませんね」


センリは美咲の手を取り、自分の頬へと導いた。
美咲の手の感触を確かめるように、センリは手を重ねて体温を感じた。


「……ただいま、迎えに来てくれてありがとう」

「当然の事をしたまでですよ。貴女のいない世界など、私には無意味です」


顔を寄せるセンリに、美咲の瞼はゆっくりと閉じた。


「美咲こそが、私の世界。私だけの光なのですから」



―終―




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