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道化の国
人形2


「もっと恐怖に駆られればいい。追い詰めて追い詰めて…、そんな美咲を救えるのは俺だけだって事、わからせてあげるから。泣きたいなら泣けばいい、もっと追い込んであげるから」


今まで逸らされていた瞳は美咲を見つめ、狂喜の笑みを浮かべた。


「真っ暗な闇に堕ちた時、俺が救いの手を差し伸べてあげる。その時にはきっと美咲は俺を求めているだろうからね…、そうすれば俺は闇のこの世界から逃げる事が出来る」

「…っ、やっ!」

「何にもない世界で、違う世界の人間の夢を垣間見る事しか出来ない俺達の苦痛を理解出来る?知らない奴等の幸せそうな夢を、ただ見るだけ。何度も同じ人間の夢を見続ければ、そいつの日常も覗けるけど……」


少しずつ近付いてくる顔に、美咲は咄嗟に瞼を固く閉じる。


「でも、幸せそうに面白おかしく暮らしている奴等の夢や生活なんて、興味がない。悔しさでそいつを引き裂いてやりたくなるだけ」


アレスは震える美咲の腕を頭上で一つに押さえつけ、美咲の首を指でなぞった。
見下ろしてくるアレスの口元からは紅い舌が覗いていて、薄い唇を舐め上げて微笑んだ。


「どうする?美咲の気持ちを無視して身体を奪う事も出来るけど…」

「……やめ…て…」

「止めて欲しい?」


アレスは耳朶に唇を押し当てて囁き、恐怖に耐え頷く美咲に小さく笑った。


「美咲は俺の言う事を聞かないから、俺も言う事を聞かない」

「っい、いやあっ!」


耳をなぞる舌先が首筋を這い、触れ濡れた唇の感触に美咲は鳥肌を立てる。

顔を振って逃れようとするものの、アレスはそんな美咲にかまう事なく空いた手でワンピースの裾を捕らえた。
徐々に露になる白い足に手を滑らせ、捲くれ上がる布にほくそ笑んだ。


「早く堕ちて俺を求めてくれれば、無理矢理なんてしないのに…」


膝裏に腕を差込み、口元を歪ませながらアレスは美咲の片足を持ち上げた。
強引に割り開かれた下半身が水鏡から零れる淡い光に照らされ、その現状に美咲は悲鳴を上げた。


「いやああーーっ!」

「泣いて絶望に堕ちれば良いよ。センリは助けになんか来ない、一人ぼっちの孤独をわかってあげられるのは俺だけだよ」


美咲の涙を舐め取り、美咲の悲鳴を吸い込むようにアレスは唇を重ねた。
遠慮無しに差し込まれた舌に驚き咄嗟に口を閉じようとするが、なぞられる歯列に力が抜けてしまいそれすらもままならない。
アレスに奪われた唇は悔しさに戦慄き、自由の利かない身体を恨めしく思いながら涙を零した。


「…そんな意固地でいるなら、身体の繋がりをもってから……心の繋がりをもとうか?」


ほくそ笑むアレスから囁かれる言葉に身を震わせ、希望を失いそうになる美咲。
センリの言葉を悲しみに満ちた思いで回想する。

“すぐに迎えに行きます、美咲。必ず助けますからね”

美咲の希望は、センリの言葉だけ。


「俺だっていつまでも優しいわけじゃない。誰がこの世界の支配者か、身体に教えてあげる」


しかしその希望は簡単に塗り替えられ、アレスから吐き出された言霊に美咲は戦慄を覚えた。



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