[携帯モード] [URL送信]

道化の国
偽り2


「残念ながら、それは無理な話です」


ナイフを持っていた手を払い退け、握られていた発光する刃がセンリによって叩き落とされた。
何の動揺も示さない美咲は微笑んでいるままで、転がったナイフに目をやった。


「貴女は美咲ではありません。美咲からは花のような芳香が立ち上っていますが、貴女からは腐敗臭しかしません」

「私は美咲よ」

「いいえ、貴女は偽者です」


暫し無言のまま見つめ合う二人。
闇が支配する空間で一際目立つ美咲の顔は変わらず、微笑を崩さない。


「美咲になら私の命など、喜んで差し出します。他の誰かの手にかかるより、美咲の手で葬ってもらえるなら本望ですからね」


落ちたナイフを拾い上げ、センリは美咲に笑みを見せた。


「しかし…姿形は美咲そのもの。例え偽りだとしても、とても良い夢を見させてもらいました」


仄白い光を放つ刃にはセンリの瞳が映り、眩しそうに僅かに細める。


「美咲に殺させようとする短絡的な脚本ですが、私にとって好都合でした。これでサザーランドと繋がりを持てました。美咲を捕らえているサザーランドに…」


センリは何もない暗闇を見つめ独り言を呟くと、ナイフを一直線に放った。
空を切る音がし、投げられたナイフは消息を絶つ。


「私はこの時を待っていました。すぐに迎えに行きます、美咲。必ず助けますからね」


闇の向こうにいるであろう美咲に語りかけるように、センリは優しい笑みで話す。

その場にいた偽者に目をやると、それまで張り付いた笑顔がなくなり無表情になっていた。


「貴女も主人の元へ帰りなさい。いつまでも美咲の姿でいられると、侮辱されているようで不愉快です」


苛立ちを目の前の美咲にぶつけ鋭い視線で睨むと、偽りの光を見せる瞳は静かに閉じられた。
美咲を覆っていた光が身体の中心に集まったかと思うと、細かな光の粒となって弾け霧散し、美咲は一瞬にして姿を消した。


「この借りは必ず返しますよ、サザーランド」




[*前へ][次へ#]

20/39ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!