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道化の国
夢か現か


「…っ!?……はっ、あ…、何今の……」


ソファにもたれていたマリカは全身から冷や汗を流し、生々しい痛みを感じた腕や手を触り身を竦めた。
意識は覚醒しているものの、苦しさや痛みはいまだ身体を支配していて、いつものセンリとは到底思えなかったあの冷たい表情が頭にこびりついていた。


「センリは…、何を考えてるの?」


現実と虚構をない交ぜに、マリカの記憶はアレスの作られた夢にいとも簡単にすりかえられてしまった。
全てはアレスの思う通りの筋書きに、マリカの心にはセンリに対する疑惑の芽を生やしていた。

残る痛みに眉根を寄せ、マリカは汗で濡れる身体を気にもせずセンリのフィールドへ急いで向かった。


分厚い本を閉じ、センリは静かな部屋で心身の疲れをため息と共に吐き出した。


「待つのは私らしくなくて嫌いなのですが…、いつになったらこの手立てを活かせるのか」


センリの中で漸く導き出す事が出来た妙案に頭を巡らせ、その策に行き着くまでの手立てを思案する。

椅子に座りうな垂れるセンリは、けたたましい物音に顔を上げた。
騒々しい足音が近付き、閉じられた扉に視線をやると怒りの形相のマリカが忙しなさげに扉を開けた。


「どうしました、随分騒々しい」

「センリ…、一体何を考えてるの?」


マリカの言っている意図が掴めないセンリは僅かに首を傾げ、そして椅子から立ち上がってマリカに近寄った。


「何を言っているのですか?」

「美咲を必要ないって…、あんたよくそんな事言えるわね!」

「マリカ、私にわかる様に」

「触らないで!!」


マリカの肩に触れようとした瞬間、嫌悪の瞳がセンリを突き刺し、叫び声と共にセンリの手が叩きつけられた。


「マリカ…?」

「そこまで薄情な男だとは思わなかったわ…、仲間だと思っていたのに…」


苛立った闘志を剥き出しにしたマリカを前に、センリは言葉をなくす。
意味のわからないセンリはどうする事も出来ず、怒りで震えるマリカを見据えていた。


「ともかく一回フィールドを出るわ、ついて来て」


一刻も早くフィールドから出たいと思う様な素早い動作で空間を切り裂き、マリカは闇の中へと入って行った。
戸惑うセンリだったが、この現状に対し何の解決策もない今はマリカに従うしかなく、消え入りそうな暗闇に続いた。


出た先にはマリカが鋭い眼差しでセンリを迎えていた。


「二度と私の前に姿を見せないで。二度と声をかけないで」

「マリ…ッ…?」


唐突に一方的な言葉をかけられ、マリカから乱暴に投げつけられた銀色の指輪。
不意に掴んだセンリの掌には、マリカに渡したマスターキーリング。


「もう必要ないわ」


その言葉を最後に、マリカは振り返る事なく暗褐色の街に消えて行った。
センリに疑念を抱くマリカの瞳は澱んでいて、真実を見抜くことが出来ない。



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