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道化の国
悪夢の標的2


「ハアッ!」


掛け声と共に、マリカの裏拳がセンリの顔面に打ち込まれる。
しかしセンリに触れる瞬間、その動きは制される。

センリの掌に包まれたマリカの拳が震え、骨を砕かんばかりに強く握られた。
手の圧迫を強くするにも関わらず、センリは至って涼しい表情でいる。


「ヤル気があるなら、早く美咲を…助けてみなさい」


痛む拳に眉間に皺を寄せるが、マリカの瞳は強い輝きを放っている。


「私は…、美咲を助けません」


それまで崩される事のなかった表情が、その一言で穏やかな笑みを零した。


「美咲は、もう必要ありません。面倒は嫌いですから」

「何…言って…っ!ああッ…!」


マリカの拳を握っていたセンリは絶句していた隙を見計らい、そのまま腕を捻り上げた。
無遠慮に捻られた腕に、関節が外れそうなほど激しい痛みが走る。

痛みに一瞬囚われると、センリはマリカの首を押さえて地に力強く押さえつけた。
センリだからと僅かに緩めていた警戒心が仇となり、マリカは一気に劣勢になってしまった。

信じられないセンリの言葉にいまだ疑いの瞳を向けながら、マリカは渋い顔を見せた。


「センリ…、自分が、何言ってるか…わかって…っ!」

「貴女に言われなくても、それくらい知っています。そもそもマリカにばかり構っていられるほど、私は暇ではありません」

「美咲がいなくなって困るのはセンリよ!気をしっかり持ちなさい!」

「煩いですね。さてもうお遊びは此処までにしましょう、ねぇ?……マリカ」


マリカを覗き込むセンリの顔は極上の笑みを浮かべていて、その表情のまま苦悶に歪んだ顔を楽しむかのように、あらぬ方向に腕を押し上げた。


「い…っ!…やああーーッ!!」


骨の軋む音がマリカの悲鳴に掻き消された。


「あ…あ…っ!」


声にならない声で呻くマリカ。
痛みに喉元を仰け反らせ暴れるマリカを他所に、外した肩の関節から手を離そうとしない。

センリが行っている裏切るような行為に、マリカの受けた精神的な打撃は痛みを倍増させていて、頭を混乱させるばかりで最早センリを見る事も出来ないでいた。


「私に意見出来ないほどに、力の差を徹底的に見せてあげます」


蔑む目付きで見下ろすセンリ。
冷静に囁かれた声が熱い息を伴って、マリカの耳に届く。




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あきゅろす。
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