道化の国
悪夢の標的1
「確証はないけど、やっぱりサザーランドの線が強いわ。これだけ調べても何もわからないんじゃ、サザーランドに絞って情報を集めるしかないわ。・・・ともかく、人手がいるわ。手の空いている騎士がいるなら総出でやってもらいたいの。迷惑をかけるけど、協力してちょうだい」
積み重ねられた本を前にマリカは騎士達を従え、説明をする。
険しい表情のマリカはその場に居た騎士に指示を出し、それぞれ行動に移す騎士達を見送った。
「美咲の身体があのままでは、もたないかもしれないのに。早くしないと…」
人の気配が消えた書庫で、マリカは深い息を吐き出してソファに腰を下ろした。
巡る頭の中では美咲の行方を探る様々な考えが思い浮かぶが、どれも答えとは言えないものばかり。
「……センリが頼みの綱だわ…、でもセンリがあの様子じゃ…」
平静さを装っていたセンリの強がりを見抜いていたマリカは、美咲を探す事に難色を示した。
「とりあえず騎士達が動いてくれている間に休まないと…。少し休んだら、センリのフィールドに行って…、センリの様子を…美咲の身体も…」
呟くマリカは苦悶の表情を浮かべたまま、暫しの休息を取った。
その眠りが、悪夢への誘いとは知らず――。
不快感で苛立つマリカは目の前のセンリを睨んだ。
何も行動を起こそうとはせず、力の抜け切った身体で椅子にもたれて仰ぐ姿がマリカの不快感を益々煽った。
「センリ!呆けていないでどうにかしなさい!美咲はセンリの希望の光なのよ!?」
マリカの叫びにもセンリは顔色一つ変えず、煩いと言いたげに目をやった。
そのセンリの態度にマリカの怒りは一瞬にして頂点に達した。
「センリ…、あんたって奴は…。…良いわ、センリがそんな態度でいるなら、私がヤル気を出させてあげるわ」
瞼を閉じたマリカは胸の前で手を合わせ、腹式呼吸を数回繰り返す。
臨戦態勢を取ろうとしているマリカなど気にもせず、センリは何もない空を見つめているだけ。
「目を覚ましなさい!」
目を見開いたマリカは軸足に力を入れ、回し蹴りでセンリの鼻先をヒールで掠めさせた。
空を切る音が高く、後から追う髪飾りの軽やかな音が響く。
マリカの動きを見切っていたのか、センリは驚く様子もなければ、動いた気配もない。
「そう…、手加減は無用ね」
体勢を立て直したマリカは中心軸を正し、ゆったりとした動作で腕を構えた。
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