道化の国
夢に巣食う悪魔1
血色の悪いセンリは無言のまま、黙々と分厚い書物を紐解いてゆく。
疲れがセンリの身体を支配しているのが簡単に見て取れるが、今のセンリにはその感覚は全くない。
しかしながら半ば意識が飛んだようにどんよりとした瞳、自らの意思を身体が反射的に動かしているといった状況だ。
自分の精神力が枯渇寸前なのは、美咲の笑顔を見る事が出来ないため。
いつも隣で笑みを見せて、自分の名前を呼ぶ愛しい人がいないため。
無意識に追いかけている美咲の残像が、センリの意識を覚醒させた。
そして、残酷な現実を思い出す。
センリは本を閉じ、薄暗い天井を仰ぎ見る。
出るのはため息ばかりで、消えてゆく記憶の美咲を悲痛な面持ちで眺めた。
「センリ!」
静寂を破ったのはマスカーレイドの声。
センリはやるせない表情から一瞬にして普段の顔に切り替えた。
「何かわかりましたか?」
「俺の方は収穫なし。けど、騎士達が何か見つけたみたいだ。今マリカが報告に来ると…」
ヒールの高い音が近付き、マスカーレイドは言葉を止めて後方からやって来た人物に身体を振り返らせた。
「少しだけだけど糸口らしき文献を見つけたわ」
「教えてください」
古めかしい褐色の本を開き、マリカはセンリに差し出した。
「もしかしたらサザーランドの生き残りが関わっているのかもしれないわ」
「まだ生き残ってる人がいたのですか…?」
曖昧に返事をするマリカは本を開き、そのページの一文を指でなぞり、話を始めた。
「一つの可能性…として仮説を立ててみたの。此処を見て、今の美咲に酷似していると思わない?」
文章を追うセンリの瞳が徐々に鋭さを増してゆく。
ページを捲る指に力が入り、怒りに満ちた瞳を露にしながら呟いた。
「サザーランド…、夢に巣食う悪魔……」
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