道化の国
夢の中2
いつまで経っても動こうとしない美咲に、浮かび上がっていたアレスは出していた腕を引っ込め、諦めたように地に足を着けた。
「別に良いけどさ、美咲が動かないなら俺が動けば良いだけだしね」
しゃがみ込んでいる美咲に近付くアレス。
そのアレスが一歩一歩近付けば、増してくる寒気に似た嫌悪感。
「や…だ…、来ないで…」
小刻みに震えながらも、美咲は鉛の様に重くなった身体で後ずさりする。
しかしアレスの歩みの速さに叶うわけもなく、瞬く間にアレスは美咲の目の前まで来ると再び手を差し出した。
「おいで」
「…此処は何なの?これは私の夢…?」
かぶりを振ってアレスの手を拒絶を示し、変わりに今一番疑問に思う事をアレスにぶつけた。
何処ともわからない場所で漸く見つけた人間に恐々としながらも、微かな希望を胸に美咲は縋るような目付きで返事を待つ。
「…そう言えばさ、実験としてあの女を使ってみたんだけど…」
自分が聞きたかった話なのかわからない美咲は不安げな表情を見せ、そんな美咲の様子を楽しむかのようにアレスは口の端を上げて言葉を続けた。
「碧の宝玉、あのエメラルドの娘…ユリアって言ったっけ?本当はあのこ娘も欲しかったんだけど、美咲が邪魔するから奥深くまで連れて行く事が出来なかったんだ」
「貴方…アレスはユリアに何を…!?…まさか…、ユリアがうなされていたいた時の夢を見せていたのは……アレ…ス?」
「まぁね。思った以上に美咲の光が強すぎて、俺の従える闇が振り払われちゃってさ」
言葉を詰まらせた美咲は目を見開いて恐怖の対象であるアレスを見つめる。
「でも…、やっと作り上げることが出来た俺のフィールドに大満足だよ」
「違う…、此処は私の夢の中のはず…」
「そうだね…此処は美咲の夢の中…、だけど」
素直に話し始めたかと思えば、アレスは勿体つけた言い方で話を止めた。
「美咲の夢と俺の作ったフィールドは、もう繋がったんだ」
アレスはそう言い終えると、妖しい笑みを湛える。
それと同時に片手を大きく払うと、一瞬だけ空間が音をたてて捩れた。
深い暗闇が消え、横たわる細い月の光が鈍く映る広い海原へと世界が変わった。
「もう君は、俺から逃げられない」
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