道化の国
夢の中1
広がるは、一筋の光も見えない暗く深い闇。
それは危機感や不安定な心境に似ていて、心が落ち着くことが出来ない。
「また…この夢…」
美咲は誰もいない暗闇で動く事もせず、ただ一人で膝を抱えて座っている。
孤独、焦り、耳に痛い沈黙は闇が作り出す空気。
慣れない苦しみは美咲の身体を圧迫し、夢にも関わらず息苦しさまである。
「やだ…、センリ…、助けて……」
身体を小さく竦める美咲は逃れたい夢から必死にセンリを呼ぶ。
このところ美咲がうなされると言う夢は、いつも真っ暗な中を独りでいる。
いつもならセンリが側にいるのだが、眠るたびに現れるのは自分を包む闇ばかり。
心が苦しいと悲鳴を上げていても自分でこの夢から逃れる術を知らず、目覚めを待つしか出来ないでいた。
「やっぱり…、センリに正直に話しておけば良かった…」
自分の事以上に美咲を心配する事がわかっているからこそ話しにくく、しかしそれはセンリの愛情表現の現われであるのを知っている。
余計な心配をかけたくないと、美咲はセンリに遠慮してしまった事を今更ながら後悔する。
動く事のない澱んだ空気に流れが生じ、風を感じた方に恐る恐る顔を上げた。
「漸くこの世界に馴染んだようだね」
浮かび上がるのは暗闇に眩しい蒼白い光を纏った青年。
暗闇に慣れていた瞳を眩しそうに細め、美咲は少し離れた場所にいる声の主を見つめる。
「誰…?」
「アレス…、アレス・サザーランドだよ。よろしくね、俺の希望の光」
「貴方の…希望の光…?」
不敵な笑みを見せる青年は腕を美咲の前に差し出し、動こうとしない美咲と暫し見つめ合った。
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