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道化の国
行方知れずの意識1


宣言通り早めに用事を済ませたセンリがフィールドに戻ると、美咲はソファで疲れたように深い眠りについている。
顔にかかっていた美咲の髪を掻き上げ、弱々しい呼吸を繰り返す姿を前にセンリの胸は何処か切なさが込み上げてきた。

いつもよりも幾分か軽くなった美咲を抱き上げ、起こさぬようにそっとベッドルームへと運んだ。


スプリングが微かに軋み、横たわる美咲の髪を梳いて側に座る。
蒼白い顔色からは生気が見受けられず、センリは頬に手を滑らせ自分の体温を分け合うように寄り添う。

本来ならば美咲の体温の方が高く感じていたのに、此処最近はセンリの方が温かく思える。
センリが心に抱える不安は、そんな美咲を前に払拭する事が出来ないでいた。

細い息を吐き出して腰を上げベッドルームを後にしようとすると、不意に美咲の掠れた声が耳に入った。
振り向き顔を覗き込めば穏やかに眠っていたはずの美咲の表情が、みるみるうちに険しいものへと変わってゆく。


「ん…・、や…、セン…、……けて…」

「美咲?」


うなされる美咲を揺り起こすが、一向に起きる気配がなく。
顔を歪めて苦しむまま、胸を大きく上下させて荒い呼吸を繰り返していた。


「…美咲、美咲?」


身体を揺り動かすが反応を見せず、センリは美咲を抱き起こして腕に抱えた。
ぐったりとしたままうわ言を繰り返し、冷や汗が滲んでいる美咲の額に手を当てた。

沸々と沸き起こる悪い予感。
うなされる美咲を見て、今までにない深い闇がセンリの心を覆った。


「どうしたのですか…、一体何が……」


確証のない不安ではあったが、逸る焦りは不可解にも一人ではどうする事も出来ないと悟ったから。
平静さをなくしたセンリは、取り急ぎマリカ達をフィールドへ呼んだ。



呼び出されたマリカやマスカーレイド達は見た事もないセンリの動揺にただ事ではないと感じ、強張った表情のままベッドルームへと向かうセンリについて行った。


「何があったの?」


ベッドで苦しそうに顔を歪ませ冷や汗を流す美咲の側にセンリが立つと、マスカーレイドとユリアがベッドを覗き込んだ。


「美咲の様子が…、おかしいのです。目を…覚まさないのです」

「美咲!美咲!?起きなさい!美咲!」


センリの言葉を聞き、少し慌てた様子でマリカは美咲の眠るベッドへ駆け寄る。
マリカは美咲の頬を叩き覚醒を促すが、蒼白い顔をしたまま、その瞳は固く閉じられている。


「美咲はいつからこんな状態なの?」

「先ほど私が出先から戻ると、すでにこの状態でした…。ここ最近美咲は夢を見ているのか、うなされてるのです。それが先ほどもうなされていたので、起こそうとしたのです。しかし……」

「センリが起こしても、起きなかった…ってわけか」


ベッドサイドに立つマスカーレイドは美咲を見下ろし、落ち着きをなくすユリアの肩を抱いた。


「…はい。マリカ、私に騎士達を貸していただけませんか?」


マスカーレイドの問いに頷くセンリは、自分に背を向け美咲の側に居るマリカへ申し訳なさそうに言葉をかけた。


「いいわ、騎士に何をさせれば良いの?」


振り向いたマリカは心配そうな顔でいて、センリを見上げた。


「まずは、希望の光の文献を読み漁っていただきたいんです。色々とありますから、人手が欲しい所です」

「わかったわ、詳しく知ってる騎士もいるかもしれないわ。今から頼んで来るから、ちょっと待ってて」

「あ、あとついでに、子供でも多少の役に立つと思うので、ユーマにも連絡を取ってください」


苦笑いのマリカは頷き、軽やかな髪飾りの音を鳴らして切り裂かれた空間へと消えていった。


「マスカーレイドも協力してください」


マリカを見送ったあと、センリはマスカーレイドに歩みを進めた。


「良いよ。けど、俺も文献を探すの?」

「いいえ、貴方の話術…とでも言うのですか?ユリアには少々申し訳ないのですが…」


意味ありげなセンリの視線と言葉に、何の事だかサッパリわからないマスカーレイドとユリアは小首を傾げて顔を見合わせた。



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