道化の国
わだかまり
「美咲、最近顔色が悪いですね」
「え、そう?」
力なく笑う美咲はそこはかとなく儚げで、今にも消えてなくなりそうなほどだ。
センリは美咲の血色を欠いた頬に掌を当て、心配そうに見つめている。
「何か悩み事でもあるのですか?」
「何もないよ?…ね、私そんなに顔色悪い?」
「えぇ、眠っている時も、随分うなされているようですし」
少し考える美咲は小さくかぶりを振り、視線をセンリから外した。
ただ、夢の中でセンリと逢わなくなった…、と言う事は何と無しに覚えていたが、それを言葉にして言おうとは思わなかった。
喉まで出かかった台詞は美咲の気持ちを、更に重いものへと変えてゆく。
押し黙る美咲に蘇るのは身体が覚えている、苦しい感覚のみ。
暗く、深い闇。
冷たく、静かな歪み。
思い出すだけでも頭が締め付けられるような鈍痛が美咲を悩ませるが、それを顔に出さぬよう作られた笑顔をセンリに向けた。
「大丈夫だよ、本当に心配性なんだから」
「そうですか?」
不本意ながらも美咲がそう言うならと、センリはこれ以上の追求を止めた。
僅かに影が差す美咲の表情に、若干のわだかまりを残して。
「何かあったら言ってくださいね」
「うん、わかった」
「…少し出掛けてきますが、美咲も行きませんか?」
美咲の頬を指を這わせ、センリは窺い見る。
撫でる指に微かに視線をやる美咲は頼りなげに首を横に振り、センリの手に自分の掌を重ねた。
「ちょっと…気分じゃないから、留守番してる」
「ではすぐ戻りますから、良い子にしていてくださいね」
センリは美咲の額に唇を落とし、静かにフィールドを後にした。
フィールドに一人佇む美咲は大きく息を吐いてソファに座った。
自分でも気付かないような疲れが、美咲の顔色を悪くさせる。
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