道化の国
動き出す1
「やぁ、センリ。」
怪訝そうに眉間に皺を寄せるセンリは、突然の来訪者に鋭い視線を向けた。
「何か用ですか。」
「やだなー、折角マスターキーリングを手に入れたんだから、試してみたかっただけだよ。」
「マスカーレイド、どうしたの?」
不意に現れたマスカーレイドを笑顔で迎える美咲は、いそいそともう一客のカップとソーサーを出しお茶の準備を始めた。
「やぁ美咲、さっきはセンリを借りちゃってごめんね。」
「ううん、いいの。ユリアはどうしたの?」
「・・そう、その事なんだけど。」
急に低くなったマスカーレイドの声を不思議に思い、美咲はお茶を入れている手を止めて振り返った。
「ユリア・・今眠ってるんだけど、俺のフィールドで一緒に留守番しててもらえないかな?」
「え・・、うん、良いけど・・。一体どうしたの?マスカーレイドはユリアを置いて何処か・・・。」
「・・・何処へ行くつもりですか?」
美咲の言葉を遮り、センリは探るような目つきでマスカーレイドの顔を窺った。
僅かな変化も逃さないと言った風のセンリは、見つめたまま視線を逸らそうとしない。
「ちょっとね。ともかく、ユリアの事頼んだよ。」
飄々とするマスカーレイドは肩を竦ませ、センリの視線を知らないとばかりに軽く一蹴し用件を話す。
「待ってください、私も行きます。貴方だけではどうなるか・・・。」
「いらない、別になんでもないし・・・。」
「貴方はユリアを犯した男達を・・・、殺しに行くつもりでしょう?」
センリはキッチンでお茶を用意する美咲に聞こえないよう小声で話し、マスカーレイドの顔を眉根を寄せて眺めた。
「・・・・。」
「マスターキーリングは美咲に預けます。美咲に付いていてもらえば大丈夫でしょう・・・。私としても、美咲がユリアと一緒に居るなら安心できます。」
返答しないマスカーレイドは黙ったまま俯き、センリの言葉を聞く。
「目星は付いているのですか?」
反応を示さないを示さないマスカーレイドに、次々に言葉を畳み掛けるセンリは語気を強める。
しかしそれでもマスカーレイドは反応せず、センリはため息を細く吐き出した。
「・・・素直に白状してはいかがです?」
一変して優しい口調になるセンリに全て見透かされていると腹を括ったマスカーレイドは、諦めの色を濃くして頷いた。
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