道化の国
戸惑いと葛藤、そして
センリが帰った後、マスカーレイドはベッドルームへと足を運んだ。
部屋に入り静かに扉を閉めれば、小さく身体を丸まらせて眠るユリアがいる。
乾ききらない涙が目尻に残っていて、そんなユリアを見てため息を漏らした。
「ユリア・・・。」
ベッドの脇で膝をつき、雫にソッと手を伸ばして苦々しい思いでそれを拭った。
マスカーレイドはセンリにも言えなかった心の奥底が沸々と煮えたぎり、今にも自分を押し潰してしまいそうになっていた。
「今まで誰かを独り占めしたいって思った事なかったけど・・、きっとこれが独占欲って言うんだな・・・。」
ユリアの身体中についた傷を見る度ざわついた気持ちは独占欲だと知り、苦しそうに顔を歪め奥歯を噛み締めた。
宝物を粉微塵に壊されてしまったような、取り返しのつかない事をしてくれた男達に腸が煮えくり返り、マスカーレイドは言いようもない苛立ちを身体中から溢れさせていた。
「気が狂いそうになる・・・・。」
過ぎるのは初めてユリアと出逢った時にいた男、そして自分達の楽しい一時を邪魔しに現れた男。
忘れようとも忘れられない屈辱は、マスカーレイドの心に追い討ちをかける。
そして自分自身を呪いたくなるほどの怒りは頂点に達してしまう。
「一体何人の男がユリアをあんな目に合わせたんだ・・。」
苦悶の表情を浮かべるユリアに薄く色付く凌辱の痕。
消えかけた印は、マスカーレイドの心にいつまでも深い遺恨を残す。
漸く見えかけた明るい未来を、ユリアを慰み者にした男によって握り潰された。
生きる事を許されない存在。
マスカーレイドはもう一度男の顔を思い出し、脳裏に焼き付けた。
ユリアに触れていた手を後ろ髪引かれる思いで離し、折っていた膝を上げて細く息を吐き出した。
しかし一旦離された手は再びユリアの頬に触れ、柔らかな感触を確かめるように優しく撫でる。
「ちょっと行ってくるね・・、ユリアにはいつも笑っていて欲しいから・・・。」
マスカーレイドはベッドに手をつきスプリングを軋ませ、額に唇を落とした。
「すぐ帰るから・・・、待っててね。」
呟くマスカーレイドは誰も見る事がないのに作った笑顔をユリアに見せ、踵を返して扉に向かっていった。
「全て片付けて・・、帰ってくるから。」
抑揚のない声を残し、怒る背中を締まる扉の隙間から垣間見せて立ち去った。
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