道化の国
濃紺の天鵞絨1
マスカーレイドとユリアに送ってもらったセンリ達は、それぞれのフィールドに戻った。
美咲はユリアの幸せそうな笑顔を思い出し、胸が温かくなるのを感じていた。
隣にいるセンリにその表情が移るほど、美咲はいつも以上に満足そうにしている。
「なぜ左手の薬指に契約の印を残すか知っていますか?」
美咲はセンリの問い掛けに、わからない様子でかぶりを振った。
「愛や絆を深める・・と言った意味合いがあるのです。ですから、この指に私達の気持ちを込めて希望の光に印すのです。」
新たに聞かされた言葉に、美咲は自分の左手をまじまじと見つめる。
自分の手にはめられている指輪は、今も変わらず真紅の深い輝きを魅せている。
「それだけ、私達にとって希望の光とは重要な存在なのです。」
今にも幸せで蕩けてしまいそうな気持ちに、美咲は左手を抱き締めセンリの胸にもたれた。
ソファに座る二人は隙間なく寄り添っていて、一時の幸福感に酔いしれていた。
「・・・それにしても、美咲・・。」
「・・なに?」
「マスカーレイドやユリアの事を考えてあれほどの表情をされると・・、少々面白くないですね。」
「・・・え・・。」
耳元で低い囁きを受けた美咲は呆けたように、センリを見つめる。
「私といる時以上に幸せそうな顔をしていましたよ?」
「だってそれは・・。」
「ユリアの幸せを願うのは良い事だと思いますが・・、私がその表情を引き出してやりたいですね。」
少しずつ押し迫ってくるセンリに、美咲は仰向けに寝てしまい背中にソファが柔らかく当たる。
「貴女の最高の笑顔は、私だけが見ていたいです。マスカーレイドのフィールドでは随分大盤振る舞いでしたね・・、美咲。」
「だって・・、ユリアが幸せそうで・・、嬉しく・・ん・・。」
美咲の言葉を遮るように唇を重ね、センリは名残惜しそうに下唇を舌先で舐めて離れていった。
「先ほどの笑顔より、もっと良い顔を見せてもらいましょうか・・?」
黒髪の一筋が顔にかかりセンリの表情が見えなくなると、涼やかな表情が妖艶に変わる。
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