道化の国
思いめぐらす2
「美咲、どうしました?」
着替えると言って戻ってくる様子をみせない美咲が心配になったセンリは、ベッドルームに姿を現した。
俯き加減で身動き一つもしない美咲に、センリは不思議そうに近寄る。
髪に隠れた表情を見ようと髪を掻き上げ首を傾けて窺えば、浮かない表情の美咲が今にも泣きそうに眉をしかめている。
「・・どうしたのですか?」
センリの問い掛けに何も発しない美咲を椅子に促し座らせる。
尚も顔を上げようとしない美咲の前に膝をつき、膝に置かれた美咲の手にセンリは掌を重ねた。
冷たい掌が美咲の澱んだ気持ちを引き締め、漸く重い口を開き始めた。
「ユリアが落ち着かないから、マスカーレイドは連絡をよこさないのかな。」
「・・・それはどうでしょう。マスカーレイドの事です、今が楽しすぎて連絡を怠っている可能性はありますが・・。」
沈んだ声の美咲に配慮し、センリは何処か慰めるように掌で美咲の小さく握られた手を包む。
「・・・まだユリアが取り乱しているかもしれなくて、マスカーレイドが大変な時かもしれないのに、私・・ただ心配だからって二人の事かき回してしまう所だった・・。」
「そんな事はありません。それに、美咲はユリアの力になれるかもしれません。ですから、マスカーレイドが大変だったとしても貴女はそれを手助けをする事が出来ます。」
伏せられた瞳が僅かに開き、見上げてくるセンリと視線を交わる。
憂いを見せる美咲とは違い、センリは穏やかに微笑みかけている。
「貴女は私の希望の光。少なからずとも、ユリアと貴女は何かしら通じる部分があるかもしれません。ユリアが落ち着いていようと、いまいと、美咲が二人の前に姿を現した所で迷惑な事は何一つありません。」
センリは立ち上がると美咲の頬に手を滑らせ、上に向かせる。
「美咲が助けてあげれば良いのです。マスカーレイドだけでどうにもならない事を、貴女がユリアを癒してあげれば良いのです。」
「センリ・・。」
「美咲が気に病む事はないのですよ?貴女は貴女のままで・・・。」
センリはそっと唇を落とし、美咲の柔らかな髪を撫でる。
不安げでいた美咲の表情は徐々に緩やかさを取り戻し、小さく笑みを見せた。
「貴女は自分で思っている以上に、皆を元気付ける事が出来るのですよ?・・さぁ、仕度を済ませたらすぐに行きましょう。」
センリの言葉で心のわだかまりが拭えた美咲は頷き、差し出された手を取って立ち上がった。
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