道化の国
思いめぐらす1
マスカーレイドから何の連絡もない時が長く感じられる美咲は、落ち着かない様子でセンリの側をウロウロとしていた。
「美咲、少し落ち着いてください。」
苦笑いを浮かべるセンリは眉をひそめる美咲の手を取り、自分に引き寄せた。
足元をふらつかせながらも、美咲はセンリに促されるまま膝の上に座った。
「だってあれから随分経っているのに、マスカーレイドが連絡をくれないんだもの。」
「マスカーレイドが初めて固執するような女性、まして希望の光が現れたのですから・・。」
「わかってるけど・・。ユリア・・・、元気になったのかな?」
諭される美咲はセンリの袖口を摘み、ぼそぼそと話した。
美咲の性格がわかるセンリにとって他人を心配する事は仕方ないとしても、目の前にいる自分と楽しもうとする考えはないのかと小さく息を吐いた。
憂いを払拭しない限り、美咲は何事も心から楽しむ事がないと悟ったセンリは仕方ないとばかりに口を開く。
「マスカーレイドに連絡しましょうか?」
「良いの?」
美咲は頬に当てられたセンリの手に自分の手を重ね、満面の笑みを見せた。
「これだけ二人きりの時を与えたのですから、邪魔をしても良いでしょう。」
「センリ・・、私は邪魔するつもりは・・、ユリアが元気だってわかればそれで良いの。」
「いえ、私の気持を知ってもらうのに調度良い機会ですから。それに・・マリカも呼んでお披露目をしてもらいましょう。」
忙しくなったとばかりに何かを考えるセンリは、膝に乗せた美咲の腰を抱き何処か楽しげに口元を上げた。
目を細めるセンリをまじまじと見つめる美咲は、センリの考えている思惑など全く理解する事が出来ず、不意に向けられたセンリの視線に捉えられた。
「美咲、着替えを。出掛ける準備をしてください。」
「う・・ん、わかった。」
急に決まった予定に、美咲はばたばたと足音を響かせベッドルームへと向かった。
クローゼットに手をつきユリアを思えば、慌しく動いていた身体が巡り始めた考えによって次第に緩慢になる。
あれだけ沈んだ様子をみせていたユリアがどれほど回復しているのかは知りえないが、幾分かは良好になっていれば良いと願う。
消せないかもしれない深く重い傷は、マスカーレイドがどれだけ静め取り去る事が出来ているのか。
今更ながら事の重大さにまざまざと気付き、美咲の手は完全に止まってしまった。
何も心配なのは自分だけではなく、当事者であるユリアやマスカーレイドが一番不安で心を痛めているのではないか。
気が休まらず、身の細る思いでいるのはないか。
美咲が思っている以上に事は深刻な状況になっているのではないか。
そう思えば、いかに自分の行動は軽率だったのではないかと肩を落とした。
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